矯正治療中、「歯がしみる」「冷たいものがつらい」と感じる方は意外と多くいます。歯並びが整う嬉しさとは裏腹に、冷たい水やアイスクリームを口に含んだ瞬間「キーン」とした痛みを感じると不安になりますよね。
こうした症状の多くは知覚過敏(ちかくかびん)によるもので、矯正中だからこそ起こりやすい要因が重なっています。
この記事では、矯正中に歯がしみる仕組みから、すぐ試せるセルフケア、治療法までをまとめてご紹介します。
知覚過敏とは?基礎知識

「冷たいものが歯にしみる」「風が当たるだけでもツンと痛む」
そんな症状に心当たりはありませんか?
それは、もしかすると知覚過敏かもしれません。とくに矯正治療中は、歯や歯茎が変化しやすくしみやすさを感じる方も。
ここでは、知覚過敏の基礎知識について解説します。
正しい知識を知っておくことで、症状に気づきやすくなり適切なケアや対処にもつながりますよ。
歯の構造を押さえる
歯は、ただ白く見えている部分だけではなく、内側にもいくつかの層が重なり合ってできています。
それぞれの層が大切な役割を担い、健康な歯を保つために働いているのです。
大きく分けて以下の三層構造になっています。

歯の構造 ①エナメル質 歯の表面を覆う人体で最も硬い組織。外部からの刺激をブロックする役割を担う。 ②象牙質(ぞうげしつ) エナメル質の下にあるやや柔らかい組織で、内部に象牙細管(ぞうげさいかん)という無数の微細な管が通っている。この管を通して外部刺激が歯髄まで伝わりやすい。 ③歯髄(しずい) 歯の中心にある神経と血管の集まった部分で、冷たい・熱いなどの刺激を痛みとして感じ取る。 |
知覚過敏の仕組み
健康な歯は、厚いエナメル質にしっかり守られているため、外からの刺激が象牙質まで届くことはほとんどありません。
けれども、さまざまな理由でエナメル質が削れてしまったり、歯茎が下がって象牙質が露出したりすると、話は変わってきます。
露出した象牙質には無数の象牙細管が通っており、そこから冷たい・熱い・甘い・風が当たる…といった刺激がダイレクトに神経に伝わってしまうのです。
その結果、「キーン」と鋭い痛みを感じることがありますが、通常は短時間でおさまります。
一般的な知覚過敏の原因 ・エナメル質の摩耗(強すぎる歯ブラシ圧、酸蝕による削れ) ・歯茎が下がる(加齢や歯周病によるもの) ・過度な歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム) ・酸性度の高い飲食物の頻回摂取(酸蝕歯) |
これらは、矯正治療をしていなくても誰にでも起こりうる要因です。
一方で、虫歯の治療後やホワイトニングなど、象牙質が直接露出していなくても、神経が刺激を受けやすくなることがあります。
さらに、矯正治療中は装置の装着や歯の動きによってお口の環境が変化しやすく、知覚過敏が起こりやすい状態になります。
そのため、矯正中はとくに「しみる」「ズキッと痛む」などの症状に注意が必要です。
知覚過敏になりやすい人の特徴
体質的要因 ・もともとエナメル質が薄い方、歯質が弱い方 ・過度な歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)がある方 ・歯並びが大きく乱れている方(ブラッシングでエナメル質を傷つけやすい) 年齢的要因 ・加齢によって歯肉が徐々に退縮しやすくなり、30代以降で症状を自覚しやすい 歯の状態 ・過去に過度なホワイトニングや研磨を受けたことがある方 ・歯周病の進行により歯肉退縮した方 |
矯正治療中に知覚過敏が起こる主な原因
矯正治療では、歯を動かす力や処置の影響により、象牙質が一時的に露出しやすくなります。象牙質は刺激に敏感なため、冷たい水などで「しみる」症状が起こります。
矯正中に知覚過敏が起こる主な原因について見てみましょう。
歯の移動による歯肉退縮・歯根露出
矯正治療では歯を動かすとき、歯を支える骨(歯槽骨)の再構築に伴って歯肉(歯茎)ラインがわずかに退縮し、結果として象牙質が露出することが。

その結果、冷たい・熱いといった刺激が直接伝わりやすくなります。
具体例 前歯を前方に引っ張ると、歯肉がついていかずに退縮しやすいワイヤー調整直後の痛みはこの歯根膜の変化が原因であることが多い |
ブラッシング・矯正装置によるエナメル質摩耗
過度な力で歯ブラシをあてたり、装置のこすれでエナメル質が削れたりすると、象牙質が露出します。
これも知覚過敏の一因です。

ポイント ブラケット周囲を一生懸命磨こうとして力が入りすぎる ワイヤーやブラケットが歯面をこすることで微小な傷ができる |
IPR処置後の一時的な刺激について
IPR(Interproximal Reduction)は、歯と歯の間を少しずつ削ってスペースを作る処置です。
この処置では、象牙質に近い部分には基本的に触れず、エナメル質の範囲内で行われます。
そのため、通常はしみるような症状は起こりにくいとされています。ただし、もともとエナメル質の厚みが薄い場合には、処置後に一時的にしみるような刺激を感じることもあります。
症状が気になる場合は、早めに担当の歯科医師に相談しましょう。
装置の接着時に行うエッチング・歯面処理
ブラケット接着前に、歯面を酸で軽く溶かす「エッチング」を行います。
エッチングはエナメル質表面をマイクロラフ化する処置です。表面がわずかに粗くなることで一時的にしみることがありますが、通常は象牙質が露出するほどではありません。
歯周病・プラーク付着など他のリスク要因
矯正装置があると磨き残しが増え、プラーク(歯垢)がたまりやすくなります。
プラークが原因で歯肉炎や歯周病を発症すると、歯肉が下がって象牙質露出を招き知覚過敏が悪化します。
「装置が邪魔で磨きにくい→プラークがたまる→歯肉が下がる→象牙質が露出→知覚過敏」という悪循環に注意が必要です。
次に、実際にどんな刺激で「しみる」のかを見ていきましょう。
知覚過敏の症状と経過

では、知覚過敏がどのような刺激で起こるのか、どの部位に出やすいのか、またどれくらいの期間続くのかといった「症状の現れ方と経過」について詳しく見ていきましょう。
どんなときに「しみる」のか?
代表的な刺激とそれによって感じる痛みの例は以下のとおり。
・冷たいもの(冷水、アイス、冷たい空気) ・熱いもの(温かい飲み物・スープなど) ・甘いもの(砂糖入り飲料、スイーツ) ・酸っぱいもの(お酢、柑橘類など) ・歯みがき中(歯ブラシの毛先や歯みがき粉が当たるとしみる) |
症状が出やすいタイミングと部位
以下のような処置後は、一時的に知覚過敏が起こりやすくなります。
・ワイヤー調整後:歯根膜が広がり、歯茎が下がることで敏感に ・IPR(歯の削合)後:象牙質に近づくため刺激に敏感に ・ブラケット装着後:エッチング処理によってしみることも |
症状が出やすいのは、前歯・IPRを行った部位・大きく動かした歯などが中心です。
矯正中の知覚過敏はどのくらいの期間続く?
矯正による知覚過敏は一時的なことが多く、数日〜1ヶ月程度で自然に落ち着く場合がほとんどです。
ただし、歯の動きが再開するたびに再発することも。強い痛みが続くときは、早めに歯科医師に相談しましょう。
痛みが『鋭くて持続的』または『ズキズキする』場合は、むし歯・歯髄炎・歯根病変の可能性もあるので注意しましょう。
矯正中の知覚過敏をやわらげるには?今すぐできるセルフケアと対策

ここからは、すでにしみる症状が出ている方に向けて、日常生活のなかでできるセルフケアや、症状をやわらげるための対策をご紹介します。
痛みが強いときのやさしい歯みがき方法と歯ブラシ選び
知覚過敏の症状が出ているときは、歯の表面のエナメル質が傷ついていたり、刺激を受けやすくなっていたりします。
そのため、強くこすりすぎると、かえって症状が悪化してしまうことも。
ポイント ・毛先のやわらかい歯ブラシを選ぶ ・力を入れすぎず、優しく小刻みに動かす ・1本ずつ丁寧にみがく ・歯と歯茎の境目を45度の角度で磨く ・インターデンタルブラシやワンタフトブラシで装置周囲を清掃する |
歯みがきの際に出血があったり、症状がひどい場合は無理せず歯科医院に相談しましょう。
知覚過敏用の歯みがき粉を活用する
市販されている知覚過敏用の歯みがき粉には、歯の神経への刺激をブロックしたり、歯の表面を補修する成分が含まれています。
たとえば、以下のような成分が有効です。
- 硝酸カリウム:神経への刺激を抑える
- 乳酸アルミニウム:刺激の通り道をふさいで保護する
- フッ素:再石灰化を促し、歯を強くする
使い方の目安:2~4週間継続すると、しみ感が軽減されやすい。
冷たいもの・酸っぱいものを控える
知覚過敏の症状が強いときは、冷たい飲み物やアイス、酸味の強い食べ物は避けたほうが安心です。特に、氷をそのまま噛んだり、炭酸飲料を長時間口に含んだままにするのはNG。
こうした刺激物は、一時的に症状を悪化させることがあります。
また、熱い飲み物と冷たい飲み物を交互にとる「温度差」も、歯にとっては負担になりやすいため注意しましょう。
歯科医院での処置も視野に
セルフケアで症状が改善しない場合は、歯科医院での専門的な処置を検討しましょう。
たとえば、以下のような対応が可能です。
- 知覚過敏を抑える薬剤の塗布
- レジン(樹脂)でのコーティング
- 噛み合わせの調整
知覚過敏の原因が矯正以外にある場合もありますので、痛みが長引くときは早めに相談しましょう。
矯正中の知覚過敏を防ぐには?予防に役立つケアと生活習慣

知覚過敏の症状は、できるだけ起こらないようにしたいもの。
症状が出てしまってから対処するのも大切ですが、そもそも知覚過敏になりにくい環境づくりも欠かせません。
ここでは、矯正中に知覚過敏を予防するために、日常生活で気をつけたいケアや習慣についてお伝えします。
日常の歯みがき・ケアで気をつける
矯正中は、いつも以上に歯や歯茎へのやさしいケアが大切。
毎日の歯みがきやお手入れの中で、次のポイントを意識してみましょう。
- 歯茎を傷つけないよう、優しい力で磨く
- 食後のうがいでプラークをためにくくする
- フッ素ジェルや高濃度フッ素配合の歯みがき粉を活用
フッ素には、歯の再石灰化を助け、エナメル質を強くする働きがあります。
食生活に気をつける(酸性食品・間食のとり方)
お口の中が酸性に傾くと、歯の表面が溶けやすくなり、知覚過敏のリスクが高まります。
以下のような食品・習慣に注意しましょう。
- 柑橘類や炭酸飲料など、酸の強いもののとりすぎに注意
- ダラダラと間食を続けると、歯の再石灰化が追いつかなくなる
間食をとる場合は、時間を決めてメリハリをつけるのがポイントです。
歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)対策を取り入れる
就寝中の歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)は、歯や矯正装置に大きな負担をかけ、知覚過敏や歯のすり減りの原因になることがあります。
歯科医師から指摘されたり、自分で「朝起きるとあごが疲れている」「歯に違和感がある」と感じる場合は、ナイトガード(マウスピース)の使用を検討しましょう。
ナイトガードを装着することで、無意識の食いしばりから歯を保護し、矯正中の歯へのダメージをやわらげる効果が期待できます。
唾液の働きを助ける工夫を
唾液には、歯の表面を守る働きや、口の中の酸を中和する力があります。
そのため、唾液の分泌が少ないと、知覚過敏のリスクも上がってしまいます。
唾液の分泌を促す方法としては
- よく噛んで食べる(ガムも有効)
- 水分補給をこまめに行う
- 口呼吸ではなく鼻呼吸を意識する
生活のなかでちょっとした工夫を続けることで、口腔内の環境を整えることができます。
定期的な歯科健診で、早めにリスクを把握
矯正中は、装置によって歯みがきがしにくくなったり、自分では気づきにくいトラブルが起きやすい時期。
歯科医院での定期健診やクリーニングを受けることで、初期の知覚過敏リスクを早期に発見し、予防につなげられます。
不安なことがあれば、矯正担当の歯科医師や衛生士に気軽に相談してみてくださいね。
受診の目安と早めに相談すべき症状

「矯正中にしみるのは仕方がないこと」と、そのまま我慢していませんか?
たしかに、矯正治療の過程では、歯が一時的にしみやすくなることがあります。多くの場合は、1週間から1ヶ月ほどで自然と落ち着くものですが、なかには注意が必要なケースも。
セルフケアを続けても症状が改善しない、あるいは痛みが強くなるような場合は、なるべく早く歯科医院に相談することが大切です。
こんなときは「早めに歯科医院へ」
以下のような症状が見られる場合は、知覚過敏だけではなく、象牙質の広範囲な露出や炎症が関係している可能性もあります。
こんなときは早めに歯科医院へ! ①1ヶ月以上しみる症状が続いている ②日常生活に支障が出るほど痛みが強い ③冷たい・熱い以外の刺激でも痛む ④歯茎から出血・腫れ・膿が出る |
無理をせず、早めの受診をおすすめします。
歯科医院で受けられる治療法
知覚過敏の程度に応じて、さまざまな治療法が用いられます。
いずれも歯や神経を守るための、できるだけ負担の少ない処置が中心です。
①薬剤の塗布
しみる部分に、フッ素や硝酸カリウムなどを含んだ「しみ止め」の薬剤を塗布します。
象牙質内部の細い管(象牙細管)を封鎖し、神経への刺激をやわらげる効果があります。通常は数回の通院で症状が和らぐことが多いです。
②レーザー治療
低出力のレーザーを使用して、象牙質を刺激から守ります。痛みの軽減効果が高く、即効性を求める方に向いています。
③レジンコーティング(レジン充填)
象牙質が露出している部分を、歯科用レジンで薄く覆い、物理的に刺激を遮断します。薬剤やレーザーで十分な効果が得られない場合に用いられることが多い方法です。
④神経の処置(歯髄処置)
まれに、強い痛みが続いて神経まで炎症が及んでいる場合には、歯の根の中を治療する「根管治療」が必要になることもあります。
ただし、矯正にともなう知覚過敏では、こうした重い処置に至ることはあまりありませんので、過度に心配する必要はありません。
矯正中のしみやすさは、一時的なものであることが多い反面、見逃してはいけない症状が隠れている場合もあります。
「少し気になるけれど、がまんできるから…」と放置せず、気になることがあればお気軽にご相談ください。
まとめ:知覚過敏と上手につきあうために

矯正治療中に起こる知覚過敏は多くの場合一過性であり、適切なセルフケアと早めの相談によって改善できます。
ここまでの内容を振り返ると、以下のポイントが大切です。
- 知覚過敏は「矯正あるある」のひとつ
- セルフケアとセルフチェックをしっかり行う
- 定期的な歯科受診でプロのサポートを受ける
- 痛みが続く・強くなる場合は早めに受診を
矯正治療中の知覚過敏は、適切なケアと対応を重ねていくことで、しっかりコントロールすることができます。
美しい歯並びを手に入れるためには、見た目だけでなく「歯の健康」も大切にしたいものですね。
今回ご紹介したセルフケアの方法や知識を、毎日の生活に少しずつ取り入れてみてください。
そして、もし気になる症状や不安があれば、ためらわずに歯科医師へ相談してみましょう。
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