歯列矯正をする上で欠かすことのできない「精密検査」をご存じでしょうか。治療前に行うこの検査は、治療の成功に向けた重要なステップです。
本記事では、これから歯列矯正をしようと検討されている方、歯列矯正について詳しく知りたいという方に向け、「歯列矯正における精密検査の基本的な情報」や「精密検査の5つのステップ」を当院で実際に行った検査の動画を交えて解説いたします。
矯正治療前に検査が必要なのはなぜ?
歯列矯正治療を始める前には、歯や顎の状態を詳細に評価するための、レントゲン写真撮影や歯型取りなどのさまざまな検査が行われます。この精密検査が重要なのは、主に以下の3つの理由があるからです。
1. 悩みの原因を特定できる
精密検査では、患者さまの歯の大きさや歯を支えている骨などの細かな情報を得られるため、「現在悩んでいる症状が歯並びのせいなのか?それとも骨格のせいなのか?」といった原因を特定できます。つまり、今後どのような治療を行えば症状を綺麗に改善できるのかという治療計画の出発点になるのです。
2. 患者さまに合った治療計画づくり
患者さま一人ひとりに合わせた無理のない治療計画を作るためにも、治療前の精密検査はとても重要です。矯正歯科医は、患者さまの歯の位置や大きさ、骨の構造、噛み合わせの問題などを総合的に考慮し、効果的で持続可能な治療計画を提案します。検査による精密な情報は、治療計画を作るために必要不可欠であり、患者さまの未来を考える上で決して疎かにできないプロセスの一つです。
3. 治療におけるリスクを減らす
歯や口は個人差が大きいため、一般的なアプローチだけではなく、個々に合わせた治療が求められます。治療前の精密検査は、検査の結果得られた情報を矯正歯科医と共有できるため、治療におけるリスクを大幅に減らすことができるのです。
例えば、矯正治療では歯を動かせる量が骨の幅によって決まっていますが、間違った診断によって治療を進めてしまうと、歯根が骨から飛び出ることがあります。このようなリスクは、骨の厚みや歯根などを3Dで確認できる歯科用CTや、その撮影結果から行う正確な分析と診断で軽減することが可能です。
歯の移動量などの問題で、どうしても回避できないリスクもありますが、精密検査と診断をしっかりと行い治療することで、矯正治療による歯根吸収や、歯肉退縮のリスクを最小限に抑えられます。
矯正治療前の精密検査は、状態の良し悪しだけを検査するのではありません。患者さまにとってより効果的、かつ安全な歯列矯正治療を実現するためにとても大きく役割を果たしてくれます。治療の成功率を向上させるために絶対に欠かせない重要なステップといえるでしょう。
精密検査の流れ
クリニックによっても検査の順番や細かな内容などは異なりますが、基本的な検査項目に大きな違いはありません。通常は以下の検査が行われます。
- 口腔内写真の撮影
- 顔貌写真の撮影
- レントゲン撮影(パノラマ・セファロ・CTなど)
- 歯型とり
- 口腔内検査
検査をした後は、採取したデータを担当医が分析し、現在の状態とどのような治療が適切かを具体的にお伝えする「診断」へと移ります。
検査後の診断では、カウンセリングの時点では不確定だった「治療期間・治療費・治療方針」などが判明することから、具体的な治療プランを知るためには、この精密検査と診断が不可欠と言えるでしょう。
費用はクリニックによっても異なりますが、全ての検査を合わせて30,000〜50,000円が平均的です。また、検査の料金にその後の診断料金が含まれているケースと、別になっているケースがあるため、検査を受ける前に料金の詳細を確認しておくことをおすすめいたします。
具体的な検査内容について
矯正治療前に行われる検査は、基本的には痛みを感じるようなものはありません。ただ、顎関節症で口を開けるのが辛かったり、嘔吐反射だったりなどの症状がある場合、口腔内写真や歯型とりで痛みや不快感が生じることがあります。このような症状がある方は、検査前に担当医、またはスタッフにご自身の症状を伝えておくと良いでしょう。
ステップ1.口腔内写真(5分)
口腔内の状態を視覚的に確認するための口腔内写真は、歯の配置や咬合の状態を記録し、治療方針の決定だけでなく、治療の進捗をモニタリングするのに役立ちます。撮影枚数は、正面、右側、左側、上顎、下顎の5枚が一般的です。
お口を広げる口角鉤、上顎と下顎の噛む面を撮影するための専用ミラーを使用し、カメラで撮影していきます。使用するカメラは、タブレットやスマートフォンなどクリニックによっても異なりますが、当院ではより質の高いデータを採るため、口腔内写真撮影に一眼レフカメラを使用しています。一眼レフカメラは、歯や歯茎の色調再現に優れており、さらに他のカメラと比べると非常に高画質であるため、記録と分析に使用する精密検査に欠かせません。
ステップ2.顔貌写真(5分)
正面や横からの顔貌写真は、顔の対称性や治療による変化を評価し、治療計画を作る際にも使われます。
顔貌写真は、正面、正面のスマイル、横顔の3枚が一般的で、口腔内写真と同様にカメラを使って撮影します。
ステップ3.歯型とり・口腔内スキャン(10分)
歯型とりは、歯の形状や大きさ、位置を正確に把握できるため、治療計画の立案、矯正装置の製作に役立ちます。今までは粘土のような材料を使用して歯型を取っていましたが、近年では精度の高い口腔内スキャナーで歯型を取ることも多くなってきました。
また、口腔内スキャナーを使用することで、歯型を取る際の不快感を軽減しつつ、スキャン技術を用いて口腔内の3Dデジタルモデルを作成し、さらに細かな治療計画を立てるのに利用することが可能です。
ステップ4.レントゲン撮影(10分)
① パノラマ・セファロ(5分)
パノラマは、口腔全体の構造を一枚のレントゲン写真にし、歯や骨の異常をおおまかに確認できる資料です。骨の高さや親知らずの有無、神経の位置など、口腔周囲の全体状況を確認できるため、矯正治療のみならず虫歯治療など一般的な歯科治療でも度々撮影されます。
また、矯正治療で特に重要なレントゲン資料が、「セファロ」です。これは、咬合や顔の形に詳細に評価できるレントゲンで、矯正治療の分析に必須である上下顎の位置や大きさ、歯の角度や奥歯の位置関係などの情報を得られることから、診断結果の質をも左右します。
このパノラマとセファロは、専用のレントゲン装置で撮影します。位置をしっかりと合わせる必要がありますが、撮影時間はほぼ一瞬です。
② CT(5分)
パノラマ、セファロは2次元の平面的なデータですが、CTは3次元の立体的なデータです。顎の位置や大きさだけでなく、骨の厚みや歯根の形、神経や血管の位置までもが立体的に確認でき、より精密な診断へと繋げられます。
特に矯正治療では、治療におけるリスクや副作用回避のため、歯根の形態や角度、骨の厚みなどを把握する必要があることから、CT撮影も重要な検査の一つです。
CTの場合も、専用のCT撮影装置で撮影します。一方向から撮影するパノラマやセファロとは異なり、CT撮影の場合360°から撮影を行うため、撮影には約20秒かかりますが、被曝量はごく僅かです。
CTや口腔内スキャナーなど最新のデジタル機器を用いた検査は、クリニックによっては実施していないところもあります。しかし、CTや口腔内スキャナーによって得られる情報は、精密検査後に実施する分析や診断、治療の質を向上させることに大きく繋がるため、当院では全ての患者さまを対象に実施しております。
ステップ5.歯周ポケット検査(5分)
歯周ポケット検査は、歯と歯茎の溝の深さを確認するための検査です。歯を支える歯槽骨の吸収を伴う矯正治療は、歯周病を悪化させてしまう原因になりかねないため、矯正治療前には歯周病の有無を確認しておくべきだとされています。
歯周ポケット検査では、プローブと呼ばれる専用の器具で溝の深さを確認するため、少しチクチクすることもありますが、基本的に痛みはありません。
検査中の注意点
検査時の資料は非常に重要ですので、一般歯科を受診するときと同じように、検査前は歯磨きのご協力をお願いしております。また、検査中は以下の注意点がございます。
- 口腔内写真では、鼻で息をし、舌を奥に、通常の咬み合わせで噛むこと
- 顔貌写真では、スマイル写真で上の歯を見せる笑顔で、髪の毛で耳や額が隠れないこと
- 歯型を取る時は、口で息をせず、力を抜き、嘔吐反射があれば事前に伝えること
- レントゲン撮影では、金属類を外し、唇を閉じ、咬み合わせを保ち、撮影中は動かないようにすること
より精度の高い診断、治療のために、当院でもスタッフから上記の注意点をお伝えしながら検査を行っております。
精密検査から矯正装置を装着するまで
矯正治療を始めるまでの流れは、「精密検査→診断→契約→治療開始」が主流です。
精密検査から診断は約3〜4週間ですが、その後契約して矯正装置を装着するまでの期間は、治療方法によっても異なります。
例えば、マウスピース矯正であればアライナーを、ブラケット矯正であればブラケット装着用のカスタムトレー(IDBトレー)が必要になることもあります。装着する矯正装置の発注が必要な場合は、契約からおよそ4週間以上かかることも珍しくありません。
クリニックや治療方法によっても期間は異なりますが、検査から矯正装置を装着するまでは、最低でも1〜2ヶ月以上は見ておいた方が良いでしょう。
当院でも、ご契約のタイミングとなる精密検査を終えた後、実際に装置をつけるまで2〜3ヶ月ほどお時間をいただいております。できるだけ早く矯正治療を開始したいという方は、カウンセリングだけでも早めに受けていただき、治療を受けるクリニックを決めておくことをおすすめいたします。
精密検査後にキャンセルしたらどうなる?
精密検査を受けた時点では、まだ治療自体の契約は交わしていない状態であることがほとんどです。よって、精密検査後、診断をキャンセルしたからといって、特に大きな問題が起きることはありません。
ただ、せっかく検査を受けたのであれば、治療の可否が決まっていなくても、診断で治療方針を確認することをおすすめします。診断を受けたからといって、必ずしも治療を始めなければいけないということはありません。
診断後、治療をどうするか考える時間は十分にありますので、まずは現在の歯並びの状況や問題点、どのような治療になるのかを聞いてみましょう。
まとめ「精密検査の質が治療の成功を左右します」
精密検査は、矯正治療において現状を分析、診断し、治療計画を立てるための非常に重要なステップです。検査の質によって診断の精度が変わってしまうことから、結果的に治療の質を左右するといっても過言ではありません。
ところが、格安マウスピース矯正をはじめ、低価格を目玉にするクリニックの中には、まともに検査を行なっていなかったり、医療従事者でない人間が検査を担当したりすることもあるようです。現在検討中のクリニックが実際にどのような検査を行なっているのか、必ず事前に確認しておきましょう。
K Braces矯正歯科では、より効果的で安全な矯正治療のため、通常の検査に加え、歯科用CTや口腔内スキャナーなど3Dデジタル設備を用いた検査を行なっています。当院で導入しているデジタル矯正システムは、検査データから精密な3Dのモデルを作成し、再現率の高い治療計画を立案できるのが特徴です。
より詳細な情報のもと、患者さまごとに適切な治療プランを提供できる当院独自のデジタル矯正にご興味のある方は、お気軽にカウンセリングにお越しください。
※当院の精密検査費用は55,000円(税込)です。その他料金についての詳細は、以下の料金案内をご確認ください。