「バッカルコリドー」という言葉をSNS等で見かけたことはありませんか?このバッカルコリドーは、近年一般の方にも広く知られているEラインやスマイルラインのように、口元の美しさに関わる基準の一つです。
バッカルコリドーの有無だけで美しさが決まるわけではありませんが、笑顔の印象を左右することがあるため、中にはコンプレックスとなっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。 今回は「バッカルコリドーを放置してはダメなのか?」や「バッカルコリドーを歯列矯正で治すことはできるのか?」などの疑問について、詳しく解説していきます。
バッカルコリドーとは
バッカルコリドー(buccal corridor)は、歯科美容の分野で用いられる概念であり、笑った際に上の歯列と頬の内側との間にできる「黒い影」のことを指します。
バッカルコリドーは、その大きさによって笑顔の印象が変わるのが特徴です。
バッカルコリドーの小さい方は、「笑った時に歯列がしっかりと見え、華やかな印象」になるため、ハリウッドスマイルが好まれる欧米の俳優や女優さんに多い傾向があります。
一方、バッカルコリドーが大きい方は、影の面積が広いことで歯の主張が控えめになるため、日本人に好まれやすい「笑顔が優しく柔らかい印象」になります。
バッカルコリドーの有無だけで美しさが決まるわけではありません。笑顔は人それぞれの個性や表情によって全く異なる魅力が生まれます。バッカルコリドーがあることが逆に魅力的に映る場合もあるのです。
しかし、笑った時の口元、さらには顔全体の印象を左右するため、個人の好みによってはバッカルコリドーを気にされる方も多くいらっしゃいます。
また、一般人と矯正医を対象にした魅力的な笑顔についての評価研究では、「性別、年齢に関係なく、バッカルコリドーの小さい笑顔の方が魅力的である」という調査結果が出ています。これにより、自分が魅力的に感じる人とご自身の笑顔を比べて、バッカルコリドーのある口元にコンプレックスを感じてしまう方も多いかもしれません。
▼バッカルコリドーの審美評価に関する論文
バッカルコリドーの原因は歯列の幅が狭いせい?
バッカルコリドーの最も多い原因は、お口の大きさに対し歯列が狭い「狭窄歯列弓(きゅうさくしれつきゅう)」です。狭窄歯列弓は、U字をしている歯列の横幅が狭くなっている状態をいい、歯列が前後方向に対して狭い状態を指します。中には、歯列のカーブが強くV字状をしているケースも少なくありません。
この狭窄歯列弓は、上下の歯列どちらにも生じる症状で、以下の理由によって起こります。
1. 先天的な理由
狭窄歯列弓になりやすい口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)は、生まれつき唇や上顎が閉じずに裂けたようになっている先天性の疾患です。特に、口蓋裂がある場合には上顎の成長発育が阻害されやすいため、ほとんどのケースで上顎の歯列弓が狭くなり、狭窄歯列弓並びに不正咬合を引き起こしてしまいます。
口唇口蓋裂の場合、指定された医療機関で保険適用の矯正治療を受けることができます。
2. 後天的な理由
3〜4歳以上の指しゃぶりや口呼吸などの癖は、歯並びの形成や顎の成長に悪影響を及ぼします。口腔習癖とも呼ばれるこれらの癖が慢性的に行われることで、狭窄歯列弓が後天的に起こってしまうケースが多くあります。
また、歯列が形成される生え変わりの時期、永久歯が生え出す前に乳歯が早く抜けてしまい、歯列が崩れてしまうことも、後天的に狭窄歯列弓になる原因の一つです。
バッカルコリドーを放置してはいけない理由
バッカルコリドーの原因が狭窄歯列弓にある場合、以下の理由から放置することはあまり望ましくありません。
理由① 不正咬合の悪化
狭窄歯列弓は、噛み合わせや歯並びに問題が生じる不正咬合(ふせいこうごう)を引き起こす原因となります。
歯列の幅が狭い狭窄歯列弓では、歯が並ぶ十分なスペースがないため、綺麗に並びきらずに歯の一部が突出したり、本来噛み合う歯がズレてしまったりすることがあります。これにより、上下の噛み合わせが不適切になり、受け口や出っ歯、八重歯(叢生)などの不正咬合を引き起こす可能性が高まってしまうのです。
また、噛む際に歯列全体が均等に接触せず、噛み合わせが不安定になることで特定の歯に過度な負荷がかかり、不正咬合を悪化させてしまうリスクも考えられます。
理由② 舌が低位になる
本来なら、舌は上顎に位置するのが正常です。リラックスしている最中も、舌は常に上顎に張り付いた状態で、かつ舌尖は上の前歯に触れない「スポット」と呼ばれる位置にあります。
このように舌が正常な位置に収まるためには、歯列弓に適切なスペースが必要です。しかし、狭窄した歯列弓では舌の位置が制約され、舌がだらんと下がった「低位舌(ていいぜつ)」という状態になりやすくなります。
低位舌の場合、舌が上顎の適切な位置にないため、口腔乾燥や不正咬合を誘発する口呼吸になりやすい傾向にあります。
また、成長期に低位舌の問題があると、顔の形や顎の発育に悪影響を及ぼすことも、低位舌の大きなリスクと言えるでしょう。成長期には、舌が上顎の適切な位置にあることで、上顎の十分な成長を促します。しかし、舌が下顎に下がっている低位舌では上顎の成長が不十分になるばかりか、定位になった舌が前歯を押すことで下の歯が突出し、後天的に受け口(反対咬合)を引き起こす可能性が高くなってしまうのです。
さらに、低位舌は舌の筋力が不足しやすいことから、舌の動きが制限され、訥弁(口ごもってしまったり、つっかえてしまったりする話し方のこと)になるリスクも考えられます。
理由③ 褥瘡性潰瘍のリスク
狭窄歯列弓は上顎だけでなく、下顎でもよく見られます。下顎の場合は、生え変わりの時期に虫歯などによって乳歯が早く抜けることで、後方の歯が前方に移動してしまい、後に生えてくる永久歯のスペースが足りなくなることが原因とされています。
その結果、永久歯が予定されている位置よりも舌側に生えてしまうことで、狭窄歯列弓が発生するのです。
このように、乳歯の早期喪失などで起こった下顎の狭窄歯列弓が重度である場合、歯列が内側にあることから舌が歯に当たりやすくなります。結果として、舌を動かすたびに不快感が生じたり、舌に傷ができて褥瘡性潰瘍(じょくそうせいかいよう)になったりするなどのリスクも考えられるでしょう。
褥瘡性潰瘍は、合わない入れ歯や尖った歯によって、粘膜への刺激が慢性的に続くことで生じる潰瘍です。刺激が続くと潰瘍が大きくなり、触ると痛みを伴います。褥瘡性潰瘍は通常、原因となる刺激物を除去することで次第に治癒しますが、狭窄歯列弓の場合は根本的な原因が歯並びにあるため、矯正治療で歯列を適切な位置に整える必要があります。
バッカルコリドーは矯正治療で治せる?
狭窄歯列弓が原因であるバッカルコリドーの場合、矯正治療は効果的な改善方法の一つです。
歯の配置を調整し、歯列を側方に拡大することで、笑った際に黒い隙間が目立ちにくくなり、バッカルコリドーが改善できることがあります。
ここで重要なのが、「歯列の拡大 = 顎骨の拡大ではない」ということです。歯列の拡大はあくまで歯並びを広げることであり、土台である顎を広げるためのプロセスではありません。そのため、本来もつ顎の大きさによっては拡大量に限度があり、十分に広げることが難しい可能性があることも知っておくべき点でしょう。
また多くの場合、歯列の拡大に伴って噛み合わせや歯の位置の調整が必要となるため、部分矯正ではなく全体矯正が適用されます。全体矯正では、およそ2〜3年の治療期間が必要ですが、バッカルコリドーを改善するために歯科矯正を行う場合、個々の歯並びや治療方法によって必要な治療期間は異なります。
矯正治療でバッカルコリドーができてしまうことはある?
抜歯を伴う矯正治療では、治療前よりも歯列弓が狭まる可能性があるため、治療後にバッカルコリドーが生じることがあります。
通常、治療前に検査や精密なシミュレーションを行うことで、可能な限り幅が狭くならないよう治療プランを立てたり、リスクの有無を判断したりすることが可能です。しかし、抜歯矯正では、バッカルコリドーの予測や対策を事前に行うことができるものの、状況によっては回避が困難なケースも少なからず存在します。
もちろん全ての抜歯治療でバッカルコリドーが生じるわけではありません。しかし、歯のサイズや歯並び、顎骨の状況次第では、矯正治療後にバッカルコリドーが現れる可能性があることも、把握しておくべきポイントです。
まとめ「バッカルコリドーの原因が狭窄歯列弓の場合は治療がおすすめ」
バッカルコリドーは個人の好みであり、その存在自体が悪影響を及ぼすわけではありません。
ただし、今回お話ししたようにその原因が「狭窄歯列弓」にある場合、不正咬合の悪化や低位舌による悪影響、潰瘍のリスクなどが考えられることから、特に重度のケースでは治療が推奨されます。狭窄歯列弓は、歯列矯正で治療することが可能な症状です。治療前に変化を予測することで、歯列や噛み合わせだけでなく、バッカルコリドーも効果的に改善することができます。
K Braces矯正歯科では、シュアスマイル(suresmile system)というソフトウェアをはじめ、口腔内スキャナーや歯科用CT装置などを用いた3Dデジタル矯正システムを導入しています。このシステムでは、口腔内のデータや顔貌の写真を取り込むことで、治療後の歯並びだけでなく、実際に笑った時の口元のイメージを事前にシミュレーションで確認することができます。これにより、バッカルコリドーをはじめとした口元のコンプレックスを改善するための細かなプランニングが可能です。
個別の症状によっては、改善が難しい場合や治療後のリスクもありますが、治療前にしっかりとご説明させていただき、患者さまが理想とする笑顔に近づけられるよう治療法をご提案いたします。 笑った時にバッカルコリドーが気になる方、狭窄歯列弓の兆候がある方は、一度当院の無料カウンセリングをお試しください。