顎が小さく目立ちにくい、顎がなくて横顔が平坦に見える…このような「顎なし」という症状にお悩みの方は多いのではないでしょうか?顎なしを改善するためのアプローチには、整形手術や外科手術など、様々なものがありますが、できる限り大掛かりな治療は避けたいですよね。
結論から言えば、顎なしは、症状の程度によっては外科手術をせず、歯列矯正のみでも改善できることがあります。
今回は、多くの方が悩む「顎なしの原因や悪影響」、そして近年人気の高い治療方法である「ハーフリンガル矯正」について、当院の実際の症例を交えつつ詳しく解説いたします。
顎なしとは
顎なしは「下顎後退(かがくこうたい)」とも呼ばれ、その名の通り下顎が上顎に対して後退している状態です。顎なしには、主に以下のような特徴があります。
- 口元が前方に突出している(口ゴボ)
- 下顎が後退して首との境目が曖昧
- 就寝時にいびきをかきやすい
- 唇を閉じると下顎に梅干しジワが生じる
顎なしは、骨格を形成する遺伝的な要因や、習慣的な口呼吸が主な原因だとされています。
顎なしの悪影響
下顎の後退は見た目にも大きな影響を及ぼしますが、それ以外にも以下のような悪影響が問題となるでしょう。
不正咬合
上顎と下顎のバランスが取れていないと、上下の歯が正確に噛み合わず、噛み合わせが不安定な不正咬合を引き起こす可能性が高くなります。実際、顎なしの方は下顎が後ろに下がっている分、必然的に上顎が前に出るため、出っ歯(上顎前突)であることがほとんどです。
出っ歯は食べ物を噛みちぎりにくかったり、見た目に悪影響を及ぼしたりするだけでなく、外傷時に前歯の破折、及び打撲のリスクが高くなるという大きな問題点があります。
顔の印象
顎なしの症状に当てはまる方は、その見た目が大きなお悩みであることが多いのではないでしょうか。下顎の後退は「丸みを帯びた印象」「上顎が出ている印象」「顔が平坦な印象」など、顔の印象に大きな影響を与えます。
特に、近頃は口元を隠していたマスクを外す機会も増えていることから、上記のような顎なしの症状が、美容上の大きな懸念点となることも少なくありません。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に一時的に呼吸が停止する疾患です。主に肥満などが原因で気道が狭くなり発症することの多い疾患ですが、実は下顎後退でもリスクが上昇するとされています。
これは、下顎後退の原因でもある口呼吸によって舌が脱力して下がっていることや、骨格的に下顎が小さいことで気道が狭くなるためです。睡眠時無呼吸症候群は、いびきが大きくなったり、呼吸が止まったりするだけではありません。質の悪い睡眠によって日中の眠気や倦怠感が生じることがあるほか、断続的な呼吸停止による身体への負担から虚血性心疾患や高血圧など、重大な全身疾患にも繋がりかねない危険な疾患です。
顎なしの症状が見られる場合、個人差はあるものの、上記に挙げたような問題が生じることが多くあります。健康状態を保つためにも、歯科医師などの専門家に相談し、適切な治療プランを検討することが重要です。
ハーフリンガル矯正とは
「ハーフリンガル矯正」は、ブラケットとワイヤーを用いた固定式の矯正治療方法の一つです。
ハーフリンガル矯正では、笑った時や会話する時に目立ちやすい上の歯には裏側にブラケットを、逆に目立ちにくい下の歯には表側にブラケットを取り付けます。つまり、上の歯を裏側矯正で、下の歯を表側矯正で治療する方法です。
適応している歯並びは幅広く、出っ歯や受け口、下顎後退まで、多くの症例に対応しています。
ハーフリンガル矯正のメリットとデメリット
メリット
目立ちにくい
ハーフリンガル矯正は、普段目立ちやすい上顎には裏側に装置を取り付けるため、治療中でも矯正装置が目立ちにくくなります。そのため、マウスピースではなくワイヤーでしっかり矯正したいけれど、上下とも裏側はちょっと…という方にもぴったりです。
舌の違和感が少ない
ハーフリンガル矯正は、治療中のストレスや不快感を最小限に抑えられる点もメリットの一つです。
フルリンガル矯正(裏側矯正)では、上下とも裏側に矯正装置を取り付けます。そのため、治療開始直後は特に舌の違和感が強く、慣れるまでしばらくは苦労されたと語る患者さまも少なくありません。
一方、ハーフリンガル矯正では、舌に触れやすい下の歯には表側に矯正装置を取り付けます。もちろん感じ方には個人差がありますが、フルリンガル矯正と比較した場合に限っては、舌の違和感が少ないと言って良いでしょう。
治療費を抑えられる
ハーフリンガル矯正は、目立ちにくいながらも治療費を抑えられる治療方法です。コストの低い表側矯正と、コストの高い裏側矯正お互いの長所を生かしながら、無理なく見た目を気にしないで治療できるのは、ハーフリンガル矯正の大きなメリットと言えるでしょう。
デメリット
対応しているクリニックが限られる
裏側矯正が取り入れられたハーフリンガル矯正は、表側矯正やマウスピース矯正よりも対応しているクリニックが少なく、矯正歯科専門のクリニックでも限られています。これは、裏側矯正治療において、習得が困難な独自の専門的な知識や技術、経験が必要不可欠であるためです。このように、どこでも治療が受けられる訳ではないという点が、ハーフリンガル矯正のデメリットになります。
向き不向きがある
笑ったり喋ったりする時に下の歯が見えやすいという癖や骨格上の特徴を持つ方の場合、ハーフリンガル矯正の装置が露出して目立ってしまうことがあります。目立ちにくい治療法を希望してハーフリンガル矯正を選択する方には、やや不向きと言えるかもしれません。
ハーフリンガル矯正で顎なしを治療した症例
今回は、矯正治療のみで顎なしの症状を改善した、当院での実際の症例をご紹介します。
治療前
こちらは治療前のお写真です。
前歯を中心に八重歯を含む重度の叢生(歯のデコボコ)や、上の前歯が突出している出っ歯を主訴に来院されました。また、歯が前に出ていることから、唇が閉じにくい口唇閉鎖不全と呼ばれる症状も見られます。
横顔のお写真を見るとわかるように、口元が前に出ていることから平坦な印象があり、顎が目立ちにくい顎なしの状態も気にされていました。
診断結果及び治療計画
症状 | ・軽度の口唇閉鎖不全 ・上下顎前歯の唇側傾斜 ・上顎右側犬歯の低位唇側転位 ・上下顎の重度叢生(歯の凸凹) ・骨格性の上顎前突 |
治療法 | ハーフリンガル全体矯正 |
抜歯部位 | あり:上顎の左右第一小臼歯(計2本)、下顎の左第二小臼歯(計1本) |
治療期間 | 2年6ヶ月 |
治療費用 | ¥1,100,000(精密検査料別) |
リスク・副作用 | ・治療中の虫歯 ・上下顎前歯の歯根吸収 ・装置による口内炎 ・治療後の後戻り ・歯肉退縮 ・歯が動くときの痛み ・治療開始直後の発音障害 |
こちらの患者さまは、下顎が後退気味なだけでなく、上顎が骨格的に前方に突出している重度の上顎前突で、さらに左右で奥歯の噛み合わせに差がありました。
重度の上顎前突では、前歯を下げるスペースを作るために、小臼歯を抜歯する便宜抜歯が必要です。そこで、上顎は左右合わせて2本を抜歯して前歯を下げ、下顎はあえて左右非対称に片側のみを抜歯し、左右差の大きかった噛み合わせを改善する治療計画を立案いたしました。
また、治療中は上の前歯を下げながら、奥歯の噛み合わせを調整する顎間ゴム(ゴム掛け)を使用していただき、効率的に治療を進めていけるようにプランニングしています。
使用する装置は、目立ちにくいハーフリンガルです。ある程度歯のガタガタが並んできたら、デジタル矯正システムでカスタムメイドのワイヤーを作成し、歯の位置や噛み合わせをしっかりと調整していきます。
※当院の料金システムはトータルフィー制度のため、万が一治療期間が予定より伸びてしまっても、最初にご提示した以外に請求することはありません。
治療後
治療終了後は、お悩みだった重度の叢生と上顎前突がしっかりと改善しています。治療中、顎間ゴムを指示通りに使用していただいたおかげで、時間を要する前歯の後方移動がスムーズに進みました。
また、治療期間は当初、2年6ヶ月を計画していましたが、患者さまのご協力と、デジタル矯正システムを用いた精密な治療計画により、半年ほど早く治療を終えられました。
治療終了後、患者さまから「横顔に自信をもって人と接することができるようになりました。前向きに今後の社会生活を楽しもうと思います。」といった喜びのお言葉をいただいています。
ハーフリンガル矯正はこんな方におすすめです
ハーフリンガル矯正は、下記のように治療中はできる限り目立ちにくく、しかし高額な費用を少しでも抑えたいという方に適している治療方法です。
- なるべく治療費を抑えたい
- できる限り目立ちにくい方法で治療したい
- 取り外しのあるマウスピース矯正に抵抗がある
適応できる症例も幅広く、今回ご紹介した下顎後退での抜歯症例やアンカースクリューを併用した矯正治療にも対応しています。 ただ、歯並びの程度や歯の見え方によっては、他の治療法が適している場合もあります。まずは数多くの矯正治療法を取り扱っている、矯正歯科医からのアドバイスを受けると良いでしょう。
まとめ「顎なしは矯正のみでもキレイに治る場合があります」
見た目だけでなく、不正咬合や睡眠時無呼吸症候群などを引き起こしやすい「顎なし」は、重度の場合には外科手術を要することもあります。
しかし、今回ご紹介した当院での症例のように、症状の程度によってはハーフリンガル矯正を含めた歯列矯正のみで改善することが可能です。
ただし、患者さま一人ひとり適切な治療プランは異なりますので、自分に合った治療方法を見つけるためには、矯正治療に精通した歯科医師との相談が重要になるでしょう。
当院では、デジタル矯正システムを活用し、治療期間を可能な限り短縮し、なおかつ精密性の高いオーダーメイドの矯正治療プランを立案いたします。
ハーフリンガル矯正だけでなく、フルリンガル矯正やマウスピース矯正、当院独自のkawaii矯正®︎まで、幅広い矯正治療法に対応しております。 下顎の後退が重度の方には、外科手術を併用した治療プランのご提案も可能ですので、顎なしの症状にお悩みの方は、お気軽にK Braces矯正歯科までご相談ください。
矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について
- 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2 週間で慣れることが多いです。
- 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。
- 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や療期間に影響します。
- 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。
- 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
- ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
- ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
- 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
- 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
- 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
- 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
- 矯正装置を誤飲する可能性があります。
- 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
- 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
- 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
- あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
- 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
- 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。