初めての矯正では絶対ダメ「セラミック矯正をおすすめしない3つの理由」

歯並びの改善や矯正治療を検討している方々にとって、1本からでも治療ができ、比較的安価に見える「セラミック矯正」は、魅力的な選択肢の一つであると言えるでしょう。

これは一般的な矯正治療が高額な費用と長期間の治療を要する一方で、ネット上ではセラミック矯正が費用だけでなく、治療期間も抑えられると謳っているためです。

しかし、その安い価格と短い治療期間というメリットがある中で、「本当に安全なのか、効果はあるのか、矯正治療とどのような違いがあるのか」などについてご存じの方はあまり多くないようです。

本記事では、矯正治療と同じように扱われることのあるセラミック矯正が「矯正治療と比べてどのような違いがあるのか」をはじめ、「セラミック矯正をおすすめできない理由」や、反対に「おすすめできるケース」について、矯正歯科医の観点から詳しく解説いたします。

セラミック矯正とは
セラミック矯正の特徴
セラミック矯正と歯列矯正治療の違い
セラミック矯正で後悔しやすい人の特徴
セラミック矯正をおすすめしない３つの理由
セラミック矯正をおすすめできるケース
まとめ「初めての矯正でセラミックスは絶対NG」

セラミック矯正とは

セラミック矯正とは、主に前歯を中心に、審美歯科で用いられる白い「セラミックス」を歯に被せ、歯並びを良く見せる治療方法です。

たとえば、出っ歯をセラミック矯正で治す場合には、歯茎から上の歯である「歯冠（しかん）」を削り、その上から傾斜を調節したセラミックスを被せることで、歯の突出感を改善します。

しかし、歯を動かさず歯根の位置はそのままに、被せ物だけで歯並びの見た目を改善しようとすると、当然ながら限界が生じます。歯の生え方によっては、神経を抜く処置を伴うことも少なくありません。

セラミック矯正は、「矯正」と名がつけられていますが、実際には歯を動かす治療ではありません。セラミック矯正と通常の矯正治療を比較した際、セラミック矯正のメリットとして「後戻りがない」とされているのは、そもそも歯を動かしていないからということになります。また、「治療期間が短い」という理由も同様です。

通常の矯正治療には、「噛み合わせや歯並びに問題がある不正咬合の状態を改善し、見た目だけではなく機能的な問題を排除して、正常な口腔機能を取り戻す」という目的がありますが、セラミック矯正ではこのような口腔機能改善の目的は含まれないため、歯学的には矯正治療には分類されません。

セラミック矯正の特徴

歯並びの改善に限度がある

歯の位置を変え、根本から歯列を改善する矯正治療に比べると、セラミック矯正では治療の効果に限界があります。そのため、思っていたよりも口元が引っ込まなかった、被せたセラミックスの形が歪になってしまった、といったトラブルも度々発生します。

総合的な治療費は決して安価ではない

セラミック矯正は、地域やクリニック、使用するセラミックスの材料にもよりますが、1本当たり約7〜13万円が平均です。1本当たりの料金だけを見ると、矯正治療よりも安価に感じるかもしれませんが、セラミックスで歯並びを綺麗に見せるために、たとえば上の前歯を6本だけ（上顎犬歯〜犬歯）だけを治療するとしても、安く見積もって50万円はかかる計算になります。

また、セラミックスは一生物ではありません。よって、治療後にどこかのタイミングで作り直す際には追加の費用が必要になることから、総合的な治療費を考えると、決して手軽かつ安く済む治療ではないのです。

定期的なメンテナンスや作り直しが必要

セラミックスを被せたからといって、その歯が虫歯にならないわけではありません。歯ブラシやデンタルフロスを用いた毎日のセルフケアはもちろんですが、セラミックスを入れた方は特に、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアが必要です。

また、セラミックスは比較的長持ちしやすい材料ではあるものの、長期間使用していると経年劣化により作り直す必要が生じるため、治療前には必ずこれらのことを考慮する必要があります。

歯並びが悪い人ほど向いていない

歯の位置が適切であり、歯茎のラインが整っているケースでは、セラミックスを被せることで審美性が向上し、満足度の高いセラミック治療を受けることができるとされています。しかし、現状歯の位置が不適切で、歯列の凸凹によって歯茎のラインが不均等の場合には、セラミック矯正を受けても、症例写真のような綺麗な仕上がりにならないことがほとんどです。

実際、当院でもセラミック矯正を行なった患者さまがご相談に来ることもありますが、歯の位置が劇的に変わらないことや、被せ物の形に問題があることから、治療の効果に満足できなかったという方が多い傾向にあります。

セラミック矯正と歯列矯正治療の違い

セラミック矯正は、補綴治療と呼ばれる被せ物の治療に分類されるため、治療を担当するドクターも、そのほとんどが歯列矯正の知識を持ち合わせていません。

よって、繰り返しにはなりますが、セラミック矯正は本来矯正治療と呼ばれている通常の歯列矯正とは、全くの別物です。

セラミック矯正と比べ、歯列矯正治療では、歯がしっかりと下がってEラインの改善が期待できるだけでなく、本来あるべき正しい位置に歯を移動させることができ、治療後の美しさや耐久性が優れているというメリットがあります。

ネットの広告などでは、セラミック矯正の安さや矯正装置が不要であること、短期間での歯並び改善ばかりが強調され、魅力的に見えるかと思いますが、メリットばかりを見るのではなく治療の本質を理解し、安易な選択をしないことが重要です。

	セラミック矯正	矯正治療
装置の着用	なし	あり
歯の移動	なし	あり
抜歯	症例による	症例による
神経の除去	症例による	なし
Eラインの変化	ほぼなし	あり
噛み合わせの改善	なし	あり

セラミック矯正で後悔しやすい人の特徴

セラミック矯正は、代わりの効かない歯を削ったり、場合によっては神経（歯髄）を抜く処置が必要だったりしますが、治療してから「やらなきゃよかった」と後悔する方も少なくありません。

特に、セラミック矯正を受けるにあたり、下記に当てはまる方は治療をすることで後悔する可能性が高くなるため、いきなり治療を受けるのではなく、まずは矯正治療のカウンセリングを受けるなど、他の選択肢としてどのような治療があるのかも調べてみましょう。

見た目の改善に限度があることを理解していない
矯正治療と同等の治療効果があると思っている
過去に歯列矯正治療を受けた経験がなく、歯並びが悪い
セラミックスが一生物だと思っている
矯正治療と比べた時の治療費の安さに惹かれている
現在の口腔ケアが不十分である
芸能人が勧めているので安心だと感じる

セラミック矯正は、言ってしまえば不可逆的な治療であり、削った歯や神経を抜いた歯は、2度と元に戻すことができません。後悔しないためにも、治療内容をしっかりと把握し、慎重に選択しましょう。

セラミック矯正をおすすめしない３つの理由

矯正歯科医の観点からセラミック矯正をおすすめしないのは、主に以下の3つの理由があるためです。

1. 根本的な解決にならない

セラミック矯正は歯根の位置はそのままに、いわばハリボテのような形で歯列の見た目をよく見せる治療であるため、根本的な治療法とは言えません。矯正治療が歯列不正の原因を取り除く「原因療法」であるとすると、セラミック矯正は一時的に歯列不正を緩和する「対症療法」と言えるでしょう。

また、歯並びがガタガタの状態では、せっかく高価なセラミックスを入れても、元の歯の位置自体は変えられないため、どうしても不均等な見た目になってしまいます。

これらのことから、過去に矯正治療を受けておらず、歯並びが悪い方の場合、見た目をよくするという治療の効果が乏しい上、根本的な解決にはならないことから、セラミック矯正をおすすめできません。

2. 歯へのダメージが大きい

セラミック矯正のように、歯を象牙質まで大きく削る、神経を抜くという処置は、歯に対するダメージが大きいと言えます。特に、神経を抜いた歯は、血液や栄養の供給が絶たれるため、通常よりも強度が低くなってしまうことが大きなデメリットです。神経を取り除いた後、歯の根っこが破折してしまう「歯根破折（しこんはせつ）」が起きてしまうと、歯を残すことが難しく、抜歯となってしまうケースも少なくありません。

また、「神経は抜かない」と謳っている場合でも、歯を大きく削った上で無理に神経を残すことから、重度の知覚過敏が起きるケースもあります。

このように、あまりにも歯へのダメージとリスクが大きいことも、セラミック矯正をおすすめ出来ない理由の一つです。

ちなみに、矯正治療でも歯を削る「IPR」と呼ばれる処置がありますが、0.1〜0.4mmほどのエナメル質を、歯へダメージを与えない安全な範囲で切削するため、虫歯のリスクが上がったり、歯の寿命に影響したりすることはありません。

3. 治療に満足できない可能性がある

特に、出っ歯や口ゴボなど、歯を引っ込めてEラインを綺麗にしたいと希望する方は、セラミック矯正をおすすめすることはできません。

これは、歯そのものを下げて口元を引っ込める矯正治療とは異なり、位置はそのままに歯の角度しか変えることのできないセラミック矯正では、Eラインの改善はほとんど期待できないためです。

歯並びが悪い状態で治療を受けてしまうと、噛み合わせが悪化するどころか、満足のいく結果につながらないことがあるため、十分に注意しましょう。

セラミック矯正をおすすめできるケース

では、反対にセラミック矯正をおすすめできるケースはあるのでしょうか？

これに当てはまるのは、既に矯正治療を受けて歯並びと噛み合わせを改善しており、尚且つ歯の色や形を改善したいというケースです。こういった場合、歯の位置や歯茎が既に適切な位置にあるため、セラミックスも綺麗に被せることができ、治療後は違和感のない美しい仕上がりになるだけでなく、神経を抜く可能性も低くなります。

特に、アメリカなど歯のケアを重要視している国では、ほとんどの方が幼少期に矯正治療を終えているため、セラミック治療をした場合でも違和感はほぼ生じません。

裏を返せば、歯列矯正をしていない場合は、歯根の位置や歯茎の位置が不均等であり、セラミックスを被せても見栄えが悪くなるため、セラミック矯正をおすすめできないということになります。