顎変形症は、一般的にしゃくれや受け口など、いわゆる下顎が大きい症状や顎のズレにより顔面が非対称になる症状と認識されていることが多くあります。しかし、実は出っ歯や前歯で噛めない開咬(オープンバイト)など、様々な不正咬合の原因にもなり得る疾患であることをご存じでしょうか?
今回はこの顎変形症について、その原因や治療方法について、詳しく解説していきたいと思います。
顎変形症とは
顎変形症は、上下顎の大きさや位置に著しい異常が見られる疾患です。骨格に問題があることから、以下の骨格由来の不正咬合が生じることがあります。
- 上顎が大きい:上顎前突(出っ歯)、過蓋咬合(ディープバイト)
- 上顎・下顎のズレ:交叉咬合、顔面非対称
- 下顎が大きい:下顎前突(受け口)
- 上顎・下顎の垂直的な位置の異常:開咬(オープンバイト)
- 下顎が後退している:上顎前突(出っ歯)、反対咬合
症状の程度にもよりますが、骨格に問題があることから「顔が左右非対称である」、「下顎が突き出ている」など、顔貌への影響も大きい傾向にあります。歯を並べる矯正治療だけでは改善が難しいことも少なくありません。受け口の場合でも見た目のみならず、咀嚼や発音、歯磨きの難しさなどに繋がることもあり、日常生活においても悪影響を及ぼすケースが多々あります。
また、下顎が小さい「下顎後退」が見られる場合、気道が狭くなりやすいことから睡眠時の呼吸がスムーズにできなくなり、睡眠時無呼吸症候群になりやすいともされています。
顎変形症の場合は骨格にズレが生じていることから、口腔内の健康や見た目などにも影響が及んでいるケースが多いため、歯列矯正を含む治療が推奨されます。
顎変形症のセルフチェック
顎変形症では、以下の症状が現れることがあります。
※こちらはあくまで簡易的なチェックとなりますので、当てはまるからといって必ずしも顎変形症であるとは限りません。正確な診断や治療の必要性を知るには、矯正歯科での精密検査や診断が必要です。
- 上顎、下顎、またはその両方が大きい、前突している
- 上顎、下顎のどちらかが小さい、後退している
- 顔が左右非対称であり、正中(前歯の上下中央ライン)があっていない
- 左右どちらかの噛み合わせが上下反対(交叉咬合)になっている
- 前歯で噛めない
- 噛んだ時に上の前歯が深く被さって下の前歯がほとんど見えない
- 両親に骨格由来の不正咬合があり、似た症状が見られる
骨格的な問題があるかどうかを知るためには、写真撮影やレントゲンの検査、矯正歯科医による分析と診断が不可欠です。治療方針や治療の必要性なども患者さまごとに大きく異なるため、噛み合わせや歯並びに問題がある場合まず矯正歯科医への相談をおすすめいたします。
顎変形症の原因
顎変形症の原因は多岐にわたります。主に以下の要因によって引き起こされる可能性が高いとされています。
遺伝
顎変形症の原因の一つとされているのが、遺伝的な要因です。古くは、ヨーロッパの王族である「ハプスブルク家」において、顎変形症が原因と思われる骨格性の下顎前突が、何代にもわたり遺伝していたことが肖像画から判明しているのが大きな理由とされています。
しかし、遺伝子による遺伝的な要因は指摘されてはいるものの、顎変形症の正確な原因であるとは断言できません。
習癖や成長ホルモンの異常
遺伝とともに、顎変形症を誘発するとされているのが、口呼吸や舌の悪い癖(口腔習癖)をはじめ、乳歯の早期喪失やホルモン分泌の異常など、顎の形成に影響を与える様々な後天的な要因です。顎が成長する時期(思春期)において症状が目立つようになり、上顎や下顎の過成長、または劣成長による不正咬合も併発しやすくなります。
上記の遺伝や習癖などの要因が個々に、または複数の要因が組み合わさって顎変形症が発症するとされています。
顎変形症の正しい治療方法は?
受け口を含む顎変形症を治療する場合、ただ手術で顎骨を切るなどして整えればいい、というわけではありません。これは、顎変形症において重要なのは見た目の改善だけでなく、不正な状態となっている噛み合わせなどの機能改善が必要であるためです。
そこで顎変形症では、症状に応じて以下の治療方法が推奨されます。
歯列矯正治療
顎変形症が軽度の場合には、歯を動かす通常の歯列矯正で見た目をある程度改善することも可能ですが、あくまでも表面的な治療となるため根本的な改善方法にはならず、歯列矯正単体では妥協的な治療となることがほとんどです。
治療方針については個人差がありますが、顎変形症の兆候が見られる方の多くは噛み合わせにも問題があることが多いため、部分矯正ではなく全体矯正が推奨されるでしょう。よって、抜歯の有無や使用する矯正装置によっても異なりますが、治療期間は2〜3年が平均的です。
「矯正治療だけでどの程度気になる部分を改善できるのか?」については個々の状態によって大きく変わり、矯正歯科で検査や診断をしなければ不明瞭な部分も多いため、まずはカウンセリングや検査、診断後にご自身の治療方針について把握しましょう。
骨格に問題のある顎変形症の方は、歯列矯正だけの治療では満足のいく結果にならないことも多いため、下顎の突出感や顎のズレなどが気になり、見た目も噛み合わせもしっかりと治したいという場合、以下の外科手術を含む治療方法を視野に入れて検討することをおすすめいたします。
顎矯正手術(外科手術)
骨格に何らかの異常がある顎変形症で、歯並びだけでなくEラインや顔貌のバランスもしっかり改善したい方の場合、歯の土台である顎にアプローチする顎矯正手術が必要です。顎矯正手術は、顎の大きさや位置を矯正するための外科手術であり、多くは通常の歯列矯正と併用して行います(外科的矯正治療)。
顎矯正手術は、治療方法によってオペのタイミングが以下の2つに分かれています。
歯列矯正の途中
顎変形症と診断された場合、歯列矯正とそれに伴う外科手術を自費ではなく健康保険で治療が可能です(治療は顎口腔機能診断施設に限る)。保険適用の場合、以下の術式が適応されます。
大まかな順序としては、
- 術前矯正治療…ブラケット装置による歯の移動(約1〜2年)
- 外科手術…手術やリハビリテーション
- 術後矯正治療…ブラケット装置による最終調整(約1〜2年)
- 保定
となります。
健康保険が適用されるため、負担額が少なくなることが特徴ですが、術前矯正治療で噛み合わせが一時的に悪くなってしまいやすいこと、治療期間が長くなりやすい点は事前に理解し、注意しなければいけません。
また、保険適用の場合には、治療に使用する装置を患者さまご自身の希望で選ぶことは基本的にできません。
歯列矯正を始める前
「サージェリーファースト」とも呼ばれているこの術式では、歯列矯正で歯を動かす前に顎矯正手術を行います。術前矯正がないことから、外科手術が行われる以外は通常の矯正治療とほとんど同じです。通常、以下の流れで治療を進めます。
- 外科手術…手術やリハビリテーション
- 矯正治療…ブラケット装置等による歯並びや噛み合わせの調整(約1年半〜2年)
- 保定
保険が適用されないため、治療費の負担が高くなってしまう反面、治療期間が短い傾向にあることや、早期に顔貌や噛み合わせの改善を実感しやすい点が特徴です。
また、サージェリーファーストの場合には保険適用と異なり、今流行りのマウスピース矯正や裏側矯正などもクリニックによっては対応可能です。
当院でも行っているこの「サージェリーファーストアプローチ」について興味のある方は、過去の記事もご覧ください。
治療法の選択はドクターの診断をもとに、患者さまの症状や治療に対する希望によって行われます。顎変形症が疑われる方は特に、矯正治療単体の治療効果の限界についてや、手術における詳細な診断が必要となりますので、矯正歯科医の診断やアドバイスを聞きながら適切な治療を受けることが重要です。
治療のタイミングは思春期からの方がいい?
思春期に治療を始めるメリットとしては、顎の成長をある程度コントロールできる可能性があること、顎の形成に悪影響を与える因子を早期に取り除けることが挙げられます。
受け口の場合、機能的顎矯正装置で口呼吸などの口腔習癖を除去することができます。歯並びだけでなく顎の正常な成長を促せるため、根本的な改善や予防的な治療ができることが大きなメリットと言えるでしょう。
ただし、思春期から早期に治療を始めたからといって、必ずしもそこで治療が終わるとは限りません。状況によっては、永久歯が生え揃った後や、顎の成長が終了した段階で追加の治療が必要になる場合があります。
矯正治療と合わせて外科手術が必要な場合、顎の成長が終了しからの手術となります。一般的に顎の成長が終わるのは「約17〜20歳以降」とされているため、その時期になってから適応されます。そのため、思春期から治療を始めた場合、総合的な治療期間が5年以上長くなってしまうケースも決して珍しくありません。
以上のことから、一概に「思春期から治療を始めた方がいい」とは断言することができません。しかし、年齢や症状によっては早期に治療を受けることで大きなメリットを得られることもあるため、小さな頃から歯並びや噛み合わせのチェックを定期的に受けることをおすすめします。
治療を始める適切な時期は個人差があるため、お子さまの歯列や噛み合わせに問題がある場合は、矯正歯科医に相談しながら、治療の開始時期を決めていきましょう。
まとめ「少しでも気になることがあれば早めに受診しましょう」
顎変形症の症状が見られる場合、口元が突出するなどの審美的な問題だけでなく、噛み合わせや発音など、機能的な問題も併発することが多くあります。程度によっては放置するとで生活に支障をきたす可能性があるため、なるべく早めに矯正歯科を受診しましょう。
顎変形症では、治療のタイミングや治療計画についても十分に考慮する必要があることから、通常の矯正治療に加え、外科手術を併用した矯正治療にも精通した矯正歯科医に相談することをおすすめします。
K Braces矯正歯科では、機能面と審美面の両方のお悩みも解消するため、形成外科医と密に提携し顎矯正手術を併用した矯正治療を行っています。CTや口腔内スキャナーなどのデジタル技術を活用し、患者さまの希望を最大限に考慮した治療を提供しております。 顎変形症の兆候があるかご心配の方、カウンセリングの段階でご自身の詳しい状態や治療方針を聞きたい方には、CT撮影が含まれる有料カウンセリングがおすすめです。無料カウンセリング、有料カウンセリング、どちらでもお気軽にご相談ください。