過去に矯正をしたことがある方の中には、クリニックを選び、精密検査と診断を終えて「いよいよ治療を始められる」と思ったら、「すぐに矯正治療をスタートできなかった」なんて経験をされた方も結構いらっしゃるのではないでしょうか?このようなケースでは、治療のスタートが予想よりも遅れてしまうため、患者さまが落胆されることも少なくありません。
今回は、「矯正治療前」に焦点を当て、「矯正治療をすぐにスタートできないケース」や「治療前にやっておくべきこと」について解説していきたいと思います。
歯列矯正を検討されている方は、矯正治療をよりスムーズに始めるためにも、ぜひ最後までご覧ください。
矯正治療をすぐに始められないケースとは?
重度の虫歯がある場合
歯列矯正をすぐに始められない理由で特に多いのが、治療が必要な虫歯があるケースです。虫歯治療は、ブラケットやワイヤーなどの矯正装置が歯に装着された状態のまま、治療をすることができません。基本的に虫歯の治療中に矯正治療を進められないことから、処置が必要な場合は矯正前に虫歯治療が必要です。
また、万が一、矯正治療中に処置が必要な虫歯になってしまった場合、治療にあたり装置が邪魔になってしまうことから、一時的に矯正装置を取り外さなくてはいけません。
虫歯によって矯正治療が中断されると、治療計画全体が遅れる可能性があります。装置を歯面に装着しない(※アタッチメントやゴムかけ用のボタンを除く)マウスピース矯正でも、虫歯治療によって歯の形が大きく変わってしまうと、マウスピースの形が合わなくなるため、いずれの矯正方法においても矯正治療前に虫歯治療を終わらせる必要があるのです。治療の範囲や矯正装置によっては、治療を終えた状態で再度歯型取りが必要になることもありえるでしょう。
治療によって、歯の形や噛み合わせが変化しやすい虫歯がある場合は、矯正前にしっかりと処置をした上で、矯正装置を発注したり、歯に装着したりする必要があるため、治療を始めるまでに時間がかかることがあるのです。
歯周病がある場合
治療が必要な歯周病がある場合、矯正治療をスムーズに進めることが難しくなります。
歯周病は歯茎の炎症から始まり、進行すると歯を支えている「歯槽骨(しそうこつ)」が消失してしまう歯科疾患です。日本において、歯を失う原因としては最も多いとされており、年代が上がるごとに発症率は高くなります。
▼参考
公益財団法人8020推進財団, 「第2回 永久歯の抜歯原因調査」報告書 平成30(2018)年11 月, p.29「抜歯の主原因」.
国民病とも呼ばれる歯周病ですが、罹患している場合には矯正治療を積極的に進めることができません。なぜなら、矯正治療において歯槽骨がとても重要な役割を担っているからです。矯正治療では、歯に適切な力を与えることで歯を動かしていきますが、この仕組みに歯槽骨が大きく関係していることをご存じの方はあまり多くないでしょう。
例えば、歯を後方へ動かすように矯正力を加えると、歯と歯槽骨を繋ぐ歯根膜と呼ばれる繊維が、歯が動く方向(後方)は押されて縮み、反対側(前方)は引っ張られるように伸びた状態となります。これにより骨の代謝が起こり、歯根膜が縮んだ方は破骨細胞によって骨が溶け、歯根膜が伸びた方は骨芽細胞によって新たに骨が作られる、リモデリングという現象が起きるのです。矯正ではこのリモデリングを利用して歯を安全に動かしていきます。
しかし、矯正治療で重要なこの歯槽骨や、周囲の組織を破壊する歯周病がある状態で矯正治療を行ってしまうのは非常に危険であり、矯正治療そのものが失敗しかねません。
骨格性の問題がある場合
顎変形症など骨格性の問題があるケースでは、矯正治療だけでは治療の効果が不十分になる可能性があります。この問題とは例えば、顎のサイズや位置の異常などです。その場合、歯列矯正と外科手術を併用する、「外科的矯正治療」が推奨されます。
通常、特定の症例において認められる、保険適用の外科的矯正治療では、術前に歯列矯正である程度歯を並べてから外科手術へ移行します。一方、最初に外科手術を実施する「サージェリーファースト法」の場合、実際に外科手術を行う医師とのカウンセリングや、血液検査など、本格的に歯列を動かすまでに事前準備が必要です。
このサージェリーファースト法を取り入れた外科的矯正治療では、術前矯正を行う保険適用される矯正治療よりも、治療期間の短縮や早期の外見改善が期待できますが、術前に様々な準備が必要になることなどから、すぐには歯を動かす治療を始められない例の一つといえます。
抜歯が必要な場合
矯正治療では、治療に伴い親知らずや小臼歯の抜歯が必要になることも、決して珍しくはありません。しかし、抜歯本数や抜歯する場所などによっては、治療を始めるまでに少し時間がかかってしまうことがあります。
通常、抜歯後は痛みなどがなければ数日で歯列に矯正装置を装着し、歯を動かす治療を始められます。しかし、クリニックの予約状況や抜歯本数によっては抜歯が終わるまでに時間がかかり、装置を装着して歯を動かし始めるまでに時間がかかることも多いでしょう。特に歯茎の下に埋もれている親知らずは、状態によっては大学病院などでの処置が必要になるため、治療を始めるまでさらに時間を要してしまうのです。
矯正治療前にやっておくべき5つのこと
1.虫歯の治療
矯正治療を検討している段階で虫歯がある場合には、早めに治療を受けておくことをおすすめいたします。これは、矯正治療直前、または治療中に虫歯治療を受けなければならなくなった場合、治療を始めるまでに予想外の時間がかかってしまったり、途中で治療を一時的に休止したりする必要があるためです。治療期間が延びてしまう原因にも繋がりますので、現在ある虫歯を治療することが、矯正治療前に行っておくべきことの一つです。
一般的には、虫歯は進行しているほど治療期間が長く、通院回数が多くなるため、虫歯の兆候がみられる場合には、早めの段階で治療をしておくに越したことはありません。虫歯治療では、症状に合わせた処置を行いますが、治療回数の目安としては以下の通りです。
初期虫歯 | 経過観察やセルフケアの徹底 |
軽度の虫歯 | 虫歯を削り、その場で白いプラスチックを詰める(処置回数約1回) |
中度の虫歯 | 虫歯を削り、歯型をとる。後日詰め物をセットする(処置回数約2回) |
重度の虫歯 | 感染した神経をとり、その後複数回に分けて根っこの中を消毒、拡大する。根っこの中が綺麗になったら、内部を密閉して土台を立てて歯型取りをする。その後、クラウンと呼ばれる被せ物をセットする(処置回数約4〜5回) |
2.歯周病の治療
歯周病が進行している場合、矯正を始められないことも多いため、歯周病治療も矯正治療前には欠かせない処置の一つです。
歯周病がある場合は、矯正前に適切な処置を受けることで歯の周囲組織の健康を回復できるだけでなく、矯正治療中のさまざまな合併症やリスクを最小限に抑えられます。歯周病においても、重度になればなるほど治療期間が長くなるため、早期の治療が重要なポイントです。
歯周病の治療は、歯科医院での歯石とりや歯ブラシなどを使用した口腔清掃の徹底など、定期的な通院と自宅でのセルフケアが基本となります。歯周病によって炎症を起こした歯茎などの組織が回復するまで、期間がかかることも多いため、矯正を検討している段階で歯周病がある方は、なるべく早めに歯科医院で治療を受けましょう。
※重度歯周病で歯槽骨が多量に失われている場合、矯正治療前に歯茎や骨の再生治療が必要なことがあります。
3.親知らずの確認
親知らずが歯列に対して問題を引き起こしている場合や、治療計画として早期の抜歯を必要とする場合は、矯正前に親知らずの抜歯処置が行われますが、状況によっては矯正治療をすぐに始められない原因となってしまいます。
そのため、矯正前にかかりつけ医などでご自身の親知らずの位置や状態を確認し、必要に応じて処置を受けることが重要です。
4.一般歯科での定期検診
一般歯科で受ける定期的な歯科検診は、矯正治療のスタートを遅らせる原因にもなる「虫歯」や「歯周病」などの歯科疾患の早期発見、早期治療が可能です。
また、歯科疾患を予防するだけでなく、万が一、矯正治療中に虫歯などが生じた場合、安心して治療を任せられるクリニックで処置を受けられるため、矯正前に定期検診で歯の健康を保ちつつ、信頼のおけるかかりつけ医を事前にご自身で見つけておくことをおすすめいたします。
5.口腔衛生の改善
お口の中の衛生環境を改善し、健康な状態を維持できるようにすることも、矯正前に行っておくべき大切なことです。
歯列矯正治療中は、矯正装置によりセルフケアが難しくなることから、お口の中を衛生的に保つことが重要になります。矯正中は歯に装置が装着されるため、通常と歯磨き方法や注意点などが異なりますが、基本的なセルフケアの方法は特に変わりません。よって、適切な歯磨きやフロスの使用、口腔洗浄剤の使用など、日常的に行うセルフケアの習慣を、矯正前にもしっかりと身につけておくことが大切です。
まとめ「虫歯は矯正治療前に治しておこう」
治療の効果を最大限に引き出し、スムーズに治療を進めるためには、今回まとめた5つのポイントを押さえた事前の準備が大切です。治療中や治療後の合併症のリスクを減らし、矯正治療の効果を最大限に活かすため、ぜひ今回ご紹介した内容を参考にしてください。担当医と協力し、矯正治療に向けて少しずつでも口腔環境を整えていきましょう。
K Braces矯正歯科では、かかりつけ医がいない方でも安心して矯正が始められるよう、虫歯や歯周病のチェックやCTを含むレントゲン診断など、口腔内の問題を事前に把握できるような診療体制を整えております。矯正治療の進め方について不安のある方も安心してご相談ください。