アンカースクリューは、歯科矯正において「治療期間の短縮や抜歯の回避など」を目的に使用される補助的な装置です。骨にネジを直接埋め込むことから「痛みが強くて大変なのでは?」と不安に思う方も多くいらっしゃいます。しかし、実際にはこの言葉の響きほど怖い治療ではありません。
本記事では、当院で実際にアンカースクリューを埋め込んだ際の動画を交えつつ、治療中や治療後の痛みの程度、痛む期間、そして適切なケアについて詳しく解説いたします。
治療のリスクや副作用についてもご説明いたしますので、矯正治療をするにあたってアンカースクリューを使用するかどうか迷っている方は、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
アンカースクリューについて
歯科矯正用のアンカースクリューは、ミニインプラントとも呼ばれている、矯正治療中に使用する小さなネジのことです。歯を支える骨(歯槽骨)に直接埋め込み、単体ではなくワイヤー矯正などと併せて使用します。
アンカースクリューは、歯を引っ張る際の基準点として使用できることから、近年では矯正治療において、欠かすことのできないものとなりつつあります。
特に、抜歯矯正で前歯を後ろに下げる症例や、ガミースマイル改善のため歯を沈める(圧下)症例において大きな効果を発揮するため、歯科矯正治療をより効果的に行うための重要なツールの一つと言えるでしょう。
骨にネジを埋め込んでも安全なの?
実際に使用するアンカースクリューは、人体との親和性が高く、金属アレルギーのリスクが非常に低い骨折治療などにも使われるチタン製であるため、健康に害を及ぼすことはありません。
また、アンカースクリューは安全性と有効性が審査されたのち、「歯科矯正用アンカースクリュー」として日本国内でも薬事承認されています。
ただし、アンカースクリューを埋め込む処置は、専門的な技術や経験が必要なうえ、患者様の歯、骨などの状態をもとにした綿密な治療計画が必要です。
通常であれば健康を害する影響は限りなく低いものの、アンカースクリューの計画や処置、術後の誤った取り扱いなどによっては、炎症などの問題を引き起こす可能性があります。
アンカースクリューの埋め込み手順
1. 検査・診断で埋め込む位置を決める
アンカースクリューの埋め込む位置を決めるため、まずは検査と診断が必要です。当院では、歯根や顎骨の厚みなども把握できる歯科用CT装置などの3Dデータをもとに、デジタル矯正システムを用いて、より安全にアンカースクリューの位置を決めております。
2. 麻酔をする(約5〜10分)
痛みの程度:★☆☆
アンカースクリューを埋め込む周囲の歯茎に表面麻酔をしていき、数分置いたら局所麻酔をしていきます。当院では、局所麻酔の際に電動麻酔器を使用することで、麻酔時の痛みを最小限に抑えています。電動麻酔器は、注入圧が一定であるため、痛みを感じにくいのが特徴です。
麻酔時に痛みを感じる方は少ないものの、麻酔が効きにくい方などは痛みが生じることもあります。
3. アンカースクリューを埋め込む(1本あたり約5分)
痛みの程度:★☆☆
局所麻酔後に時間をおき、麻酔が効いていることを確認したら、シミュレーションを確認して埋め込む位置に印をつけていきます。その後、専用の電動ドライバーでゆっくりとアンカースクリューを埋め込み、最後までスクリューが入ったら埋入は終了です。骨を削るような処置は必要ないため、埋入が完了するまではほとんど時間はかかりません。
埋め込んでいる最中は、麻酔が効いているので痛みはほとんどありませんが、押されるような違和感が生じることはあります。
出血はほとんどありませんが、念のため術後は患部を消毒します。アンカースクリュー装着後は、その後すぐにアンカースクリューへ歯を引っ張るためのゴムや、PLASと呼ばれる金具をセットすることもありますが、しばらく期間を空けてからアンカースクリューを使用することもあります。
4. 術後
痛みの程度:★★☆
注意事項などの説明を受けたら、麻酔が切れていなくてもご帰宅いただいて問題ありません。麻酔が効いているしばらくの間は特に痛みが出ることはありませんが、麻酔が切れると多少の痛みが生じます。
5. 経過観察(約5〜10分)
痛みの程度:☆☆☆
アンカースクリューを埋め込んで約1週間後、消毒とともにアンカースクリューの経過をチェックします。問題がなければ、そこからアンカースクリューを併用して矯正治療を進めていきます。
治療後の痛みはどのくらい?
アンカースクリューを埋め込む際は、麻酔が効いているため、ほとんど痛みは感じません。ただ、アンカースクリューの埋め込み後、麻酔が切れると個人差はあるものの腫れや痛み、違和感などが生じます。痛みは少しじんじんするような程度で、日常生活に支障をきたすものではありませんが、痛みがある場合には念のため処方された痛み止めを服用すると安心です。
痛み自体は2〜3日程度でおさまることが多く、長引いたり我慢できなかったりするほどの痛みが出ることはありませんので、ご安心ください。
治療後はどんなケアが必要?
術後は、痛み止めは必要な場合にのみ服用し、抗生物質や洗口剤が処方された場合には、指示通り服用、または使用するようにしましょう。
アンカースクリューの周囲は汚れが溜まりやすいため、ブラシを用いて清掃する必要がありますが、通常の歯ブラシではなくタフトブラシを使用するようにしてください。強く擦らず、術後から数日は優しくブラシをあてて、力を入れすぎないように動かすことも重要です。ブラシや舌で軽く触る分には問題はありませんが、アンカースクリューを指で強く触ると抜け落ちてしまう可能性もあるので、なるべく控えるようにしてください。
また、食事についてですが、硬いものや粘着性の強いもの、刺激の強すぎるものなどは、術後すぐは避けた方がいいでしょう。
アンカースクリューによる出血や腫れは、ほとんどが数日で治ります。そのため、親知らずなどの抜歯と違い、術後やその翌日も普段通りに過ごしていただいて問題はありません。
ただ、感染や出血のリスクが全くないわけではありませんので、できる限り激しい運動や過度な飲酒などは控え、患部を清潔に保つことが大切です。
アンカースクリューのリスクと副作用
動揺・脱落(ぐらつき・抜け落ち)
歯科矯正用アンカースクリューは通常、埋入後は骨にしっかりと固定されるため、装置がぐらつく「動揺」や、抜け落ちてしまう「脱落」のリスクは比較的低いものです。しかし、装置が正しく埋入されていなかったり、骨の質や密度が低かったりする場合、アンカースクリューがしっかりと安定せず、ぐらぐら動いたり、抜け落ちたりする可能性があります。
また、稀ではありますが、例えば誤った食事の咀嚼や外傷など、アンカースクリューに対して過度な力がかかる場合にも、スクリューのぐらつきや抜け落ちのリスクがあるので注意が必要です。
患部の炎症や感染
アンカースクリュー埋入による、感染及び炎症リスクは、適切な感染予防策やケアをすることで最小限に抑えることが可能です。
しかし、衛生管理が不十分で埋入の過程で細菌が傷口に侵入したり、術後のアフターケアが不適切だったりすると、傷口から感染を引き起こして炎症が現れるリスクが高まります。
術後の痛みや腫れ
アンカースクリューは、通常の外科処置と比べて組織への損傷が少ないものの、麻酔が切れた後はしばらく埋入部位に軽度の痛みや腫れが生じます。
ただし、これは、組織の反応として自然な現象であり、一般的には2〜3日程度で緩和されます。また、術後の痛みは、処方された鎮痛剤で和らげられるため、痛みが生じた場合には、症状にあわせて適切な対処を行うことが重要です。
アンカースクリューの破折(はせつ)
歯科矯正用アンカースクリューは、チタンという壊れにくい素材で作製されており、通常の日常生活では基本的に壊れることはほぼありません。しかし、アンカースクリューに対して過度な力がかかる場合、非常に稀ではありますが破折(はせつ)してしまう可能性があります。
歯根の損傷
アンカースクリューは、歯の根っこではなく歯と歯の間に埋め込まれるため、歯根に対しての損傷は起こりません。
しかし、埋入時にアンカースクリューに対して過度な圧力をかけたり、設置する場所にミスがあったりすると、ネジの先端が歯根に当たって損傷してしまうことがあります。
適応できない可能性
アンカースクリューは、全ての患者さまに適応できる治療方法ではありません。例えば、口腔乾燥症の方や妊娠中の方、糖尿病など一部の疾患を持つ方には、原則として適応しないものとされています。
基本的には幅広い方に使用され、効果を発揮するアンカースクリューですが、患者さまの健康状態によっては、他の矯正治療方法を検討する必要があります。
まとめ「アンカースクリューは痛みが少なく、あっという間に終わる」
「骨にネジを埋め込む」と聞くと、どうしても身構えてしまうかもしれませんが、今回ご紹介した動画の通り、アンカースクリューの処置は痛みも少なく、あっという間に終わってしまう小規模な治療です。
アンカースクリューの説明を聞いていると、痛みや恐怖をイメージさせるような単語が出てくるので緊張してしまいがちかもしれません。しかし、実際の治療においては適切な麻酔やアフターフォローが行われますので、痛みも腫れも非常に少ない治療です。
また、リスクや副作用についても心配される方も多いかと思いますが、適切な治療計画と処置、アフターケアが行われれば、リスクは最小限に抑えられます。クリニック選びや術後のケアをしっかり行い、矯正治療を効果的に進めていきましょう。
アンカースクリューを併用した矯正治療にも対応したK Braces矯正歯科では、埋入に際して以下の点を徹底し、安全な埋入処置を行っています。
- デジタル矯正システムで埋入位置を正確に設定
- 滅菌、バリアフィルムなどを用いた術中の感染予防
- 矯正治療に精通したドクターによる処置
カウンセリングでは、実際に使用するアンカースクリューをご確認いただくこともできますので、もっとアンカースクリューについて知りたいという方は、一度お気軽にカウンセリングへお越しください。