もしも、あなたが「他の人と比べて噛み合わせが深い」と感じたことがあるなら、それは「過蓋咬合(かがいこうごう)」という状態かもしれません。
過蓋咬合は、上下の歯が正常に噛み合わないことで、歯の噛み合わせが深くなってしまう咬合状態を指します。 今回は、過蓋咬合が引き起こす重大な5つのリスクに加え、「過蓋咬合の症状を確認する方法」や「過蓋咬合の治療法」についても詳しく解説していきます。
過蓋咬合について
過蓋咬合(ディープバイト)は不正咬合の一つで、上下の歯の噛み合わせが正常よりも深い歯並びです。
正常な場合には上の前歯が下の前歯よりもわずかに重なっている程度ですが、過蓋咬合は噛んだときに上の前歯が下の前歯に深く重なり、3分の2以上も覆い被さっている状態です。重度の方になると、噛んだときに下の前歯がほとんど見えないことも珍しくはありません。
また、過蓋咬合は出っ歯とよく間違われやすいのですが、両者は別々の症状です。この二つの不正咬合が併発していることも多くあり、噛み合わせが深い過蓋咬合(ディープバイト)は垂直的な位置関係の異常、上の前歯が出ている出っ歯(大きなオーバージェット)は前後的な位置関係の異常による不正咬合となります。 過蓋咬合は、出っ歯や八重歯、受け口のように目立ちやすい不正咬合でないことから、一見すると歯並びが良く見えることもありますが、機能的および審美的な問題を引き起こすことがあるため、特に重度の場合には矯正治療が推奨されています。
過蓋咬合による5つのリスク
見た目は歯並びが整っているように見えていても、過蓋咬合にはいくつかのリスクが存在しています。以下にその主なリスクと理由を詳しく説明していきます。
リスク① 歯へのダメージが大きい
骨格的にいわゆる「ローアングル」と呼ばれる特徴的な形態を持つ場合、過蓋咬合になりやすく、咬合力も強いと言われています。咬合力が強いと、磨耗によって歯の表面が削れることから、まれにエナメル質の下の組織である象牙質が露出し、知覚過敏が生じることもリスクの一つです。
また、このように過度な咬合力が繰り返し加わると、歯が耐えきれずに欠けてしまったり、部分的に割れてしまったりする可能性もあります。「歯冠(しかん)」と呼ばれる歯ぐきから上の部位が損傷した場合には、修復可能なケースがほとんどですが、歯の根っこが割れてしまう歯根破折(しこんはせつ)が起こってしまうと、歯を失うことにも繋がりかねません。
他にも、強い咬合力により、詰め物や被せ物などが破損しやすいといったリスクも抱えています。
リスク② 歯ぐきや顎関節への悪影響
過蓋咬合は、重度になると噛んだときに下の前歯が上の歯ぐきに接触し、傷ができてしまうことがあります。咀嚼や無意識下の歯ぎしり等により、歯の先端が歯ぐきに繰り返し接触することで治癒が遅れたり、傷が悪化したり潰瘍になってしまうケースも少なくありません。
また、過蓋咬合は顎関節症(口が開けにくかったり、口を開ける際に顎がカクッとなったりする症状)になりやすい傾向があります。下顎は本来であれば、上下左右の全方向へ自由に動かすことができます。ところが過蓋咬合の場合、下の前歯に上の前歯が深く被さっていることから、顎の動きが制限されてしまいがちです。その結果、顎関節に負担がかかりやすいと考えられています。
過蓋咬合によるこのような長期間にわたるストレスは、歯ぐきの損傷や顎関節症を引き起こす原因となりかねません。
リスク③ 下顎の成長を阻害
お子さまの場合、特に大きなリスクは下顎の成長を阻害してしまうことです。
性差や個人差はありますが、約10歳〜15歳は特に下顎の成長が活発な時期です。この時期に過蓋咬合があると、本来なら前方に成長するはずの下顎が、深く覆い被さる上の前歯に邪魔され、成長が阻害されてしまう可能性があります。
下顎の成長が阻害されることで、顎が後方に下がっている「下顎後退(かがくこうたい)」や、上顎が前に出ている「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」など、骨格性の不正咬合を引き起こしやすくなってしまうのです。
リスク④ 不正咬合の悪化
過蓋咬合のように下の前歯が上の前歯に強く接触していると、上の前歯が下から突き上げられることで歯が前方に傾き、出っ歯になってしまう可能性があります。
また、奥歯が強く接触している場合には、噛み合う歯の面が削れて次第に奥歯の噛み合わせが深くなり、過蓋咬合の症状が一層ひどくなることもあり得ます。
このように過蓋咬合は、歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼし、不正咬合を悪化させてしまうリスクも存在するのです。
リスク⑤ エラの張りと筋肉の疲労感
噛み合わせが深い過蓋咬合は、一般的に噛む力が強い傾向がありますが、これにより咬筋(咬む筋肉)が緊張を起こし、エラが張ってしまうことがあります。
全てのエラ張りが過蓋咬合に起因するわけではありませんが、過蓋咬合では見た目に影響を及ぼすエラ張りの症状がある方も多くいるのが特徴です。 また、咬筋の緊張が強いと、顎の周囲の筋肉に疲労感やこわばりが生じることもあります。
こんな症状があったら要注意!
以下の症状に当てはまる場合、過蓋咬合の可能性が高くなります。
※症状全てに当てはまる必要はありません。過蓋咬合であるかどうか、矯正治療が必要かどうかは、矯正医に判断してもらうことが重要です。これらの症状が気になる場合や、当てはまらなくても噛み合わせに不安がある場合は、なるべく早めに矯正医へ相談しましょう。
- かみ合う際、上の前歯が下の前歯に5mm以上隠れてしまう
- 歯の先端や奥歯の咬む面が削れて摩耗している
- エラが張って見える
- 顎の疲労感や筋肉のこわばりがある
- 上の前歯の裏側の歯ぐきに炎症や損傷が見られる
- 歯ぎしりの癖がある
- 以前よりも噛み合わせが深くなったように感じる
過蓋咬合を治すと顔が伸びるって本当?
「過蓋咬合を治療することで顔が伸びる」という主張は、一般的には正確ではありません。
そもそも顔の形や骨格は、個人の成長段階や遺伝的な要因、および顔の筋肉や脂肪によって決まります。過蓋咬合は歯の噛み合わせの問題であるため、一般的に顔の骨格に直接的な影響を与えるものではありません。
過蓋咬合の治療は、咬み合わせや歯列を調整することで、上下の歯がしっかり噛み合うようにすることを目指します。治療によって歯並びが改善されると、顔のプロポーションにわずかな変化が生じることがありますが、これは歯の位置の変化によるものです。つまり、顔が伸びることは基本的にはないといって良いでしょう。
ただ、過蓋咬合によってエラが張っていた場合、矯正治療を行うことで噛み合わせが正常になり、結果として咬筋の張りが消え、顔の輪郭がほっそりとした印象になることがあります。 エラ張りがなくなることで顔の印象が変化し、実際には長さの変化がなくても「顔が伸びた」と感じることはあるかもしれません。
過蓋咬合の治療に関して知っておきたいこと
過蓋咬合の治し方は?
過蓋咬合を治すには、歯並びや噛み合わせを改善する矯正治療が適切です。他の不正咬合と同じように、マッサージや市販グッズなどによって「自力で治す方法」や「自然に治る方法」はありません。
過蓋咬合の矯正治療には保険は適用される?
重度の過蓋咬合を歯列矯正で治療する場合でも、基本的には保険を適用することはできません。
ただ、骨格に非常に大きな問題があり、骨切りの外科手術を要する重度の過蓋咬合と診断された場合に限り、指定された医療機関で健康保険での矯正治療、および外科手術が可能となります。
自費の場合でも医療費控除は受けることができるため、通常の方はこちらの制度を利用しましょう。
矯正装置は何を使用する?
まだ永久歯が生えそろっていない小児の場合には、噛み合わせの深さを軽減させる取り外し式の装置が用いられることがほとんどです。
永久歯が生えそろった時期以降は、基本的には金属ブラケットやセラミックブラケットを歯に取り付け、ワイヤーを通して歯を適切な位置に動かす「ワイヤー矯正」が推奨されます。
マウスピース矯正はワイヤー矯正と同様に、矯正治療において歯を動かす装置として使用されています。しかし、過蓋咬合の場合には歯の移動が複雑であるため、マウスピースだけでは治療が難しいことも多くあります。
また、過蓋咬合では、治療において歯を沈める(圧下)移動様式が用いられることから、歯を支える歯槽骨に埋め込む小さな矯正用インプラント、「アンカースクリュー」を使用する症例も少なくありません。
▼参考:出っ歯、口ゴボ、過蓋咬合の矯正治療例(kawaii矯正)
抜歯は必要?
過蓋咬合に加えて出っ歯や叢生の不正咬合があったり、その他の症状によって抜歯が必要だったりする場合には、矯正治療に伴い親知らず以外の歯(小臼歯)を抜歯することがあります。これは、咬み合わせや歯並びを改善するためのスペースを十分に確保し、無理なく過蓋咬合を治療するためです。
抜歯の有無は過蓋咬合の程度や骨格、歯並びによっても変わるため、自己判断ではなく精密な検査と矯正医の診断が必要不可欠となります。
▼参考:症例:上顎の正中離開、過蓋咬合、下顎の軽度の凸凹の治療例
▼参考:重度の叢生と過蓋咬合等の症状を併発した難度の高い矯正治療例
部分矯正では治らない?
過蓋咬合の矯正治療では、前歯から奥歯までを動かす必要があるため、基本的には全体矯正が適応されます。
治療に使用する装置や歯並びでも差が生じますが、全体矯正のため治療期間は軽度の場合1〜2年、重度の場合は2〜3年と考えておいた方が良いでしょう。
▼参考:症例:重度の出っ歯、口ゴボ、過蓋咬合の治療例
過蓋咬合かも?と感じたら
一般的に過蓋咬合が重度で、機能的または審美的な問題を引き起こしている場合には、歯列矯正での治療を行うことが推奨されます。ただし、過蓋咬合と一口に言っても矯正治療の必要性や推奨度、治療すべき範囲は個々で異なります。顎関節や他の歯に悪影響が及んでいない限りは、患者さまご自身が最終的にどんなゴール(理想の仕上がり)を目指すかによるところが大きいでしょう。
また、過蓋咬合は歯のガタガタ(叢生)や出っ歯(上顎前突)など、他の不正咬合と併発していることも多い歯並びです。放置しておくことで歯並びが悪化したり、過蓋咬合が重度に進行したりすることも十分に考えられます。まずは一度矯正医の診断を受け、ご自身の状態を把握することをおすすめいたします。
まとめ「過蓋咬合は矯正治療で根本的な改善が目指せます」
過蓋咬合は、その噛み合わせの深さからエラの張りをはじめ、歯の損傷や顎関節の炎症など、お口の周囲に悪影響を及ぼしてしまうことがあります。しかし、過蓋咬合は正しい治療プランと矯正歯科医との協力によって、根本から改善することが可能な症状です。
K Braces矯正歯科では、患者さまご自身の希望を第一に考え、デジタル矯正技術を活用し歯根吸収や歯肉退縮等のリスクを最小限に抑えた過蓋咬合の矯正治療を行っています。
ベーシックな表側矯正はもちろん、裏側矯正やハーフリンガル、さらに独自のkawaii矯正®︎を取り扱っておりますので、患者さまにぴったりな装置で治療を受けられる点が当院の特徴です。
初診相談では、個室のカウンセリングルームで矯正医とゆっくりお話することができますので、過蓋咬合でお悩みの方もどうぞお気軽に無料カウンセリングへお越しください。