インターネットやSNS上には「誰でもできる」「即効性がある」といった、自力で歯並びを矯正する方法が多く溢れていますが、これらは歯列矯正治療に精通した専門家の指導や経験に基づくものではありません。実際に、誤った方法で歯を動かそうとすることで、歯列だけでなく、歯に対しても深刻な損傷を引き起こす可能性があります。
今回は、特に真偽不明の情報が多い「口ゴボ、出っ歯、顎なし」に焦点を当てながら、歯並びにお悩みを持つ方が誤った情報で悩むことのないよう、自力治療のリスクについて矯正歯科医の観点から解説していきたいと思います。
歯並びを自力で治すのが無理な理由
最初にお伝えいたしますが、口ゴボ、出っ歯、顎なしを自力で治すことはできません。これは、受け口などその他の不正咬合も同様です。
SNSやオンライン上のコミュニティでは、トレーニングやマッサージなどで歯並びを自力で治す方法が多くみられます。ところが、これらは「洗濯バサミで鼻を挟むと鼻が高くなる」と同じように、医学的根拠のない情報がほとんどです。
歯は長期間の舌癖（舌を歯に押し付ける癖等）などで動いてしまう一方で、なぜ自力ではキレイに整えることができないのでしょうか？これには、以下の理由があります。
理由1. 専門的知識や技術が不可欠であるため
歯列矯正は、歯科治療の中でも特に複雑なプロセスが必要であり、専門的な知識と技術、経験が不可欠です。歯の動きや矯正の原理を正確に理解した上で、患者さまの症状に適した治療を計画し、歯を1本1本コントロールしながら動かしていく必要があります。
また、治療の際にはレントゲンやCTを確認して、事前にmm単位での分析を行い、歯だけではなく、土台となる歯槽骨や骨格も考慮して治療をしなければいけません。このような治療のプランニングを、知識も情報もないままに行うのは、不可能かつ非常に危険です。
理由2. 安全に動かせる矯正器具が必要であるため
矯正治療で使用するワイヤーやマウスピースは、歯に対して弱い力を持続的に与える役割を担っています。矯正治療では、この調整器具や矯正装置によって、組織に損傷を与えない範囲の絶妙な力を与えることで歯を動かすため、安全に治療を進められるのです。
つまり、歯を安全かつ適切な場所へ動かすためには、強く瞬発的な力が加わる「マッサージ」や「エクササイズ」、「手や道具を使ってで歯を押す」などでは、歯の移動が不可能であるばかりか、非常に危険であると言えます。また、これらの方法では、歯を適切な位置へ動かすためのコントロールもできません。
理由3. 継続的なモニタリングが必要なため
歯列矯正は継続的な矯正器具の調整と、口腔内のモニタリングが必要です。治療中の定期検診では、矯正装置の調整だけでなく、歯の配列や、噛み合わせなどの確認も欠かせません。
自己治療では、専門家による適切な頻度での調整やモニタリングができないことから、やはり自力での治療が不可能であると言わざるを得ません。
これらの理由から、歯列矯正は矯正歯科医のもと、専門的な分析と診断による治療計画をベースに、適切な道具を使用して歯列を健康的に移動させる矯正治療が、最も安全で効果的であると言えるでしょう。
自力治療によるリスクとは
口ゴボの場合
口ゴボを改善するための治療方法として度々挙げられているのは、美容整体と銘打った「マッサージ」や「エクササイズ」です。内容としては、口周りを手でマッサージしたり、唇で歯を押さえつけるように顔の筋肉を動かす、というものが多いでしょう。
しかし、マッサージやエクササイズは口ゴボ（上下顎前突）の治療には全くもって無意味であり、逆にこれが「不正咬合の悪化」を招くことがあります。
具体的な症状としては、歯を手や唇で押すことで、上下前歯の歯列が内側に傾いてしまうことです。「内側に傾くのであれば、口ゴボが改善するのでは？」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。通常、口ゴボの改善には、歯列を全体的に後ろへ下げる矯正治療が必要であるものの、この場合はただ歯が傾き、歯の位置自体はそのままなので、口ゴボの症状はほぼ変わらないと言って良いでしょう。
また、まれに呼吸方法を変えるだけで口ゴボが改善すると大々的に謳っていることもありますが、成人の方の場合、すでに完成している骨格、並びに歯列が呼吸方法だけで変化することはあり得ませんので、こちらも医学的根拠が全くない方法だと言えます。
ただ、口呼吸から鼻呼吸に変え、舌の位置を改善することは、口腔機能を正すことに繋がりますので、「改善はできないものの、今後行う治療の役には立つ」と考えていただいていいでしょう。
出っ歯の場合
出っ歯の場合、壁に前歯を押し当てるという方法が見られますが、これは不正咬合の悪化を招くだけでなく、歯を傷つけることにも繋がりかねないため、絶対にやめましょう。
もちろん、この方法で出っ歯が治ることはありませんので、いくら出っ歯を治したいという気持ちが強くても、避けるようにしてください。
また、出っ歯に関しても、舌の位置を正し、口腔周囲の筋肉を正しく機能させることで自力で治るという情報もありますが、こちらも成人の場合は舌の位置を改善するだけで出っ歯が治ることは決してありません。
顎なしの場合
顎なしでは、口ゴボのようにマッサージで改善する方法が多く取り上げられています。顎なしは、正確には「下顎後退」と呼ばれる症状ですが、これは主に骨格が問題であることの多い不正咬合です。
マッサージで下顎後退を改善するというのは、マッサージで鼻が高くなる、マッサージで骨由来のエラ張りを治すなどと同じで、効果は全くありません。
過剰なマッサージは不正咬合の悪化を招くだけでなく、方法によっては顎関節にも負担をかけてしまいますので、顎なしの改善を目的としたマッサージを行うことはおすすめできません。
以上のように、ネット上ではさまざまな情報が飛び交っていますが、そのほとんどが無意味なだけでなく、大きなリスクを伴うことがあるのです。
特に、発信者が歯科医師や矯正歯科医でない限りは、歯列矯正に関する医学的根拠のない情報を取り入れるのは控えましょう。
自力治療による最悪な末路
不正咬合の悪化
歯があらぬ方向へ動いてしまうことで起きるのは、不正咬合の悪化です。例えば、歯を押すなどして歯が傾いてしまったりすると、歯列の凸凹が目立つ「叢生（そうせい）」を引き起こす可能性があります。
さらに、歯の傾斜によって上下の噛み合わせが崩れ、奥歯でうまく噛めなくなったり、噛み合わせが深くなってしまう「過蓋咬合（ディープバイト）」にも繋がりかねません。
治療期間や治療費の増加
自己治療によって歯が倒れてしまったり、噛み合わせが合わなくなってしまう不正咬合の悪化が起こると、治療期間や治療費にも影響を及ぼします。
本来であれば、もっと簡単に治療できたはずが、悪化によって難症例となることで、治療期間が長くなってしまったり、これにより治療費が高くなってしまったりすることも考えられます。
また、治療費や治療期間の増加だけでなく、改善するためのプロセスが複雑になることで、治療の選択肢が狭まる可能性もあるでしょう。これは例えば、本来マウスピース矯正が適応だったものの、不正咬合の悪化によってワイヤーでないと治せなくなった、などです。
歯の損傷による耐久性の低下
自力で治そうと歯に力を加えている最中、何らかの拍子に前歯をぶつけたりするなどの強い衝撃が生じた場合、神経にまでダメージが伝わると歯髄壊死を引き起こすことがあります。よって、無理に自力で治そうすることで、最悪の場合「壊死した神経を抜く処置」が必要になることも考えられるでしょう。
このように神経を抜いた歯は、矯正治療で動かすことはできるものの、神経のある歯と比較するとどうしても歯の耐久性が低下してしまい、破折などのリスクが大きくなってしまいます。
矯正したいけどお金がない時は？
矯正治療は高額であり、気軽に受けられる治療ではないことから、なんとか自力で歯並びを治そうと方法を探していらっしゃる方が多いのではないでしょうか。
しかし、多くの矯正歯科クリニックでは、院内での分割払いや、デンタルローン（※審査あり）を利用した分割払いに対応しています。危険な方法を試す前に、まずは治療を始める前には最低でもどのくらいの金額が必要なのか、分割払いの可否や回数を含め、事前に調べてみましょう。
ただ、治療費だけをみてクリニックを決めるのは、大変危険です。歯並びが希望通りに治らないだけでなく、場合によっては、通常よりも高額な治療費が必要になってしまうケースもあります。
矯正治療を受ける際には、なるべく矯正専門のクリニックであり、多くの矯正治療法に対応していること、低価格を売りにしていないことなどを目安に、いくつかのクリニックで先生との相性も見ながら、カウンセリングを受けてみることをおすすめいたします。
クリニックの選び方の注意点について、詳しくはこちらの記事もご参考になさってください。
まとめ「自力治療は今すぐ止めましょう」
歯列矯正は、歯の大きさやその土台の大きさ、骨格の前後的な位置など、細部に至るまで分析を行う、いわば計算し尽くされた治療です。よって、歯列矯正は「専門的な技術、経験、知識に長けた矯正歯科医のサポート」が欠かせません。
近年はネットにより、気軽にさまざまな情報を得られるようになりましたが、その分情報の取捨選択も難しくなっているのが現状です。ご自身の歯並びにお悩みの方は、信憑性のない情報に惑わされず、専門家による治療を受けることが最も安全で、確実なゴールへの近道であることを認識していただきたいと思います。
K Braces矯正歯科では、口ゴボや出っ歯、顎なし以外にも、幅広い歯並びのお悩みに応じた、矯正治療を提供しております。当院では、CTなどの3Dデータで精密な分析を行うデジタル矯正システムを導入しているため、安全性の高さはもちろん、治療を円滑に進められることから、治療期間の短さも特徴です。
まずは初回のカウンセリングで、患者様が抱えている不安やお悩み、疑問点などをお聞かせいただければと思います。
