矯正治療をする際に気になる主なポイントは、「治療期間」「費用」「目立ちやすさ」ではないでしょうか?中でも治療期間は、就職活動や結婚式などの重要なイベントを控える方にとっては非常に重要なポイントです。
短期間で矯正治療を完了させるのは難しいことではありますが、歯並びの状態によっては決して不可能ではありません。
しかし、SNSなどで短期間の矯正治療を謳っている医院の中には、実際には限られた歯並びにしか適応できなかったり、いざ治療を始めたら通常の矯正治療と同じくらいの期間がかかったりするケースも多く存在していることも事実です。
今回は、当院が実際に治療を行った症例をご紹介しながら、短期間の矯正治療についてお話ししていきたいと思います。
歯列矯正の治療期間は平均でどのくらい?
歯列矯正を大きく分けると、前歯のみを治す「部分矯正」と、前歯から奥歯までの全ての歯を動かす「全体矯正」の2つがあり、この治療範囲によって治療期間が大きく変わります。
歯並びや治療法によっても差がありますが、歯列矯正の一般的な治療期間は、部分矯正で6ヶ月〜1年、全体矯正で2〜3年が平均です。
部分矯正の場合には歯の移動量が少ないため、1年未満で治療が終わることがほとんどです。しかし、部分矯正でも抜歯を必要とする場合や、全ての歯を移動させる全体矯正の場合には、どうしても治療に1年半〜3年はかかってしまいます。
つまり、歯を動かす範囲が狭ければ狭いほど治療期間は短くなり、反対に歯を動かす範囲が広ければ広いほど治療期間は長くなるのです。
治療期間が短い部分矯正は難易度が高い?
治療期間だけを比較すると「部分矯正で気になるところだけを治療すれば良いのでは?」と考える方も多いかと思いますが、残念ながら部分矯正は適応される歯並びが限られており、全ての方に適応できる治療ではありません。
例えば、前歯のガタガタだけでなく、重度の出っ歯や八重歯のほか、噛み合わせに大きな問題がある場合には、無理に部分矯正することで歯並びや咬み合わせの悪化に繋がりかねないため、全体矯正が必要です。
部分矯正は一見簡単そうなイメージがあるかもしれません。しかし実際には、部分矯正は難易度が高く慎重な診断が必要であることから、担当する医師によって治療結果の差が大きい治療法です。そのため、部分矯正を希望される場合、まずは矯正治療を専門的に行うドクターに相談し、適切な診断を受けるようにしましょう。
治療期間は人それぞれ異なります
同じ歯並びを持つ2人に全く同じ治療方法を適用しても、治療期間が完全に一致することはありません。なぜなら、歯が動くスピードは治療範囲だけでなく、骨の代謝や年齢によっても異なるためです。
矯正治療では、歯を動かしたい方向に圧力をかけながら、歯の移動をコントロールしています。この時、歯を支える骨である歯槽骨(しそうこつ)に起こるのが、骨の吸収と添加、簡単に言えば骨の破壊と生産です。このサイクルは骨の代謝にも関係しています。
例えば、子供は大人に比べて代謝が活発なため、歯槽骨に起こる変化のスピードも早く、短期間で矯正ができるといわれています。 歯列矯正の治療期間は骨の代謝や年齢などの生理的な要素にも大きく影響されるため、一人ひとり治療期間が異なることを、あらかじめ理解しておく必要があります。
当院で行なった短期間での3つの治療例
1. 前歯の凸凹と出っ歯気味な「叢生と唇側傾斜」
主訴(患者様のご要望)
上の前歯が捻じれて歯と歯の間(正中)に隙間ができており、かつ前方に傾いているのが気になるとのご相談です。歯を抜かない、非抜歯での矯正治療を希望されていました。
症状
- 上下顎中等度の叢生(歯の凸凹)
- 上顎中切歯の翼状捻転(ハの字のような歯の捻じれ)
- 上下顎前歯のわずかな唇側傾斜(唇側に歯が出ている)
治療内容
こちらの患者様は、上の歯並びのみを対象とした部分矯正にて治療を行いました。下の前歯も若干前歯に叢生がみられますが、患者様のご要望により片顎のみの治療となっています。
使用したのは裏側矯正装置で、希望されていた通り歯を抜かない非抜歯での治療です。
患者様のお悩みを解消するには、上の前歯のねじれをとり、正中を閉じながら、前方に傾斜している歯を内側に戻す必要がありました。
ただ、歯を正しく並べるためのスペースがない状態で、そのまま無理に前歯を動かしてしまうと、他の歯が歯列から飛び出てしまったり、治療後の後戻りのリスクが高くなったりと、様々な悪影響が生じてしまいます。
そのため、非抜歯のこちらの患者様は、IPR (InterProximal Reduction)を併用しての治療を行いました。IPRは、ディスキングやストリッピングとも呼ばれ、主に前歯の両サイドの面を0.1mm〜0.3mmほど削ることで、歯を並べるためのスペースを確保する処置です。
削る量は歯並びによっても異なりますが、いずれも歯に影響がない程度に行います。歯を削るというと驚かれる方も多いですが、IPRを行うことで虫歯や歯周病になりやすくなるといったことは、過去の研究結果からも報告されておりませんので、どうぞご安心ください。
結果、このIPRと裏側矯正によって、治療期間6ヶ月で主訴にありました「上の前歯の凸凹」が改善され、さらに正中の隙間や歯の突出感がなくなり、大変綺麗な歯並びとなりました。
症状 | ・上下顎中等度の叢生(歯の凸凹) ・上顎中切歯の翼状捻転(ハの字のような歯の捻じれ) ・上下顎前歯のわずかな唇側傾斜(唇側に歯が出ている) |
治療法 | 上顎のみを対象とした裏側部分矯正装置による矯正治療 |
抜歯部位 | なし(非抜歯) |
治療期間 | 6ヶ月 |
治療費用 | ¥715,000 (精密検査料別) |
リスク・副作用 | ・歯肉の退縮(ブラックトライアングル) ・ブラケット、およびワイヤーによる口内炎 ・歯の移動に伴う痛み ・IPRによる知覚過敏 ・矯正装置による発音への影響 ・歯根吸収 |
症例紹介ページ
2. 歯のガタガタが目立つ「前歯の叢生」
主訴(患者様のご要望)
こちらの患者様は、上下の前歯がガタガタで気になるということでお悩みでした。また、できる限り短期間で終えられる治療方法を希望されていました。
症状
- 上下顎中等度の叢生(上下の歯の凸凹)
- 上下顎前歯のわずかな唇側傾斜(前歯が唇側に傾いている)
治療内容
叢生による歯の凹凸が大きいことから、抜歯を適用した全体矯正も考えられましたが、短期間での治療を希望されていたことから、IPRを併用した非抜歯での治療をご提案いたしました。
使用したのは、マウスピース型矯正装置(インビザライン:薬機法適応外)で、IPRによって確保したスペースを活用しながら、歯を徐々に動かして歯列のガタつきを取り除いていきます。
歯周組織が薄い方の場合、特に部分矯正では歯ぐきが下がってしまう歯肉退縮のリスクが高くなりますが、こちらの患者様は歯肉が下がることもなく、6ヶ月という短期間で綺麗に歯並びを整えることができました。
また、自己管理が必要なマウスピース型矯正装置を、ルールをしっかりと守って使用していただけたのも、短期間での治療が成功した理由の一つです。
症状 | ・上下顎中等度の叢生(上下の歯の凸凹) ・上下顎前歯のわずかな唇側傾斜(前歯が唇側に傾いている) |
治療法 | マウスピース型矯正装置(インビザライン)による矯正治療 |
抜歯部位 | なし(非抜歯) |
治療期間 | 6ヶ月 |
治療費用 | ¥1,100,000 (精密検査料別) |
リスク・副作用 | ・アライナーによる発音への影響 ・矯正装置による口内炎 ・前歯の歯肉退縮(ブラックトライアングル) ・歯の移動に伴う痛み ・治療後の後戻り ・歯根吸収 |
症例紹介ページ
3. 噛むと上下の前歯がぶつかってしまう「切端咬合」
主訴(患者様のご要望)
歯のガタガタと、前歯の噛み合わせを治したいと来院されたのがこちらの患者様です。前歯のみの部分矯正と、歯を抜かない非抜歯矯正を希望されていました。
症状
- 前歯切端咬合(前歯の切端同士が当たる)
- 上顎前歯の唇側傾斜(前歯が唇側へ傾いている)
- 上顎中等度・下顎軽度の叢生(歯の凸凹)
- 下顎前突(下顎が前に出ている)
治療内容
こちらの患者様は、噛んだ時に上下の前歯同士が切端で当たってしまう「切端咬合」と呼ばれる不正咬合でした。切端咬合は、ただ食事がしにくいだけでなく、前歯の欠けにも繋がる危険な歯並びです。また、横からの写真を見ると分かるように、下の歯が前に突出している下顎前突の症状も見られます。
このような歯並びは、通常抜歯を伴う全体矯正が適用されますが、患者様の強い希望と診断結果により、前歯を中心とした非抜歯での部分矯正となりました。使用した矯正装置は、ブラケットとワイヤーによる裏側矯正です。
非抜歯での治療となるため、必要なスペースを作り出すIPRを併用した矯正治療となります。また、この患者様は咬み合わせ改善のため、「顎間ゴム」と呼ばれるゴム掛けを行なっていただきました。
顎間ゴムは、歯に装着したブラケットやボタンに、患者様ご自身で毎日専用のゴムを引っ掛けていただき、ゴムの力で咬み合わせを調整していく補助的な治療です。
このゴム掛けをしっかりと行なっていただいたことと、正確な治療計画により、無事に6ヶ月で治療を終えることができました。気にされていた前歯の凹凸だけでなく、横から見ると分かるように奥歯もしっかり噛むことができています。
症状 | ・前歯切端咬合(前歯の切端同士が当たる) ・上顎前歯の唇側傾斜(前歯が唇側へ傾いている) ・上顎中等度、下顎軽度の叢生(歯の凸凹) ・下顎前突(下顎が前に出ている) |
治療法 | 前歯部のみを対象とした裏側部分矯正装置による矯正治療 |
抜歯部位 | なし(非抜歯) |
治療期間 | 6ヶ月 |
治療費用 | ¥715,000 (精密検査料別) |
リスク・副作用 | ・ブラケット、ワイヤーによる口内炎 ・歯の移動に伴う痛み ・治療後の後戻り ・歯根吸収 |
症例紹介ページ
矯正治療を早く終わらせるためには?
ご紹介した症例では、治療を進める際に患者様にいくつかのご協力をお願いしています。
例えば、取り外し可能なマウスピース型矯正装置(インビザライン)を使用する場合、アライナーの装着時間や交換頻度、フィット感を高めるためにチューイーを使用することや、顎間ゴムを使用する場合は指示された場所にゴムを掛けることなどです。
このように、患者様のご協力は、矯正治療を早く終わらせるために非常に重要な要素となります。
ドクターからの指示に従うことは、矯正治療のスムーズな進行にも繋がりますので、ご自身のためにもしっかりと実行していきましょう。
まとめ「部分矯正なら最短6ヶ月での矯正治療を目指せます」
全ての歯並びが、今回ご紹介した症例のように短期間で治療できるわけではありませんが、正確な診断と綿密な治療計画によって、治療期間の短い部分矯正で、無理なく機能的で美しい歯並びを得られるケースも多くあります。
しかし、治療期間の短さだけでなく、最終的な歯並びの美しさ、咬み合わせなどの機能性どちらも考慮することが重要です。
K Braces矯正歯科では、患者様の希望を第一に考えているため、矯正医の意見だけを反映した治療を行うことはありません。もちろん、専門的な観点から見た際に、治療を推奨する点をお伝えさせてはいただきますが、患者様の希望を汲み取ったできる限りの治療法をご提案させていただきます。
歯科用CTやシミュレーションモデル、コンピュターによるカスタムワイヤー等が特徴の、3D技術を活用した当院のデジタル矯正では、歯肉退縮や歯根吸収のリスクを最小限にした、審美的、機能的に優れた安全な部分矯正に対応しています。 治療期間をできる限り短縮させたい、ご自身が部分矯正適応であるかを知りたいという方は、矯正医が担当する当院の初回カウンセリングで詳しくご相談ください。
矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について
- 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2 週間で慣れることが多いです。
- 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。
- 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や療期間に影響します。
- 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。
- 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
- ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
- ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
- 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
- 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
- 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
- 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
- 矯正装置を誤飲する可能性があります。
- 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
- 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
- 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
- あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
- 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
- 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。