日本では、八重歯は可愛らしい特徴として受け入れられていますが、世界では全く異なる見方があることをご存じでしょうか?
八重歯の印象は世界と日本とでは大きな違いがあります。特に欧米では、歯を重視する文化から、八重歯は治療が必要な歯並びとして問題視されることも少なくないのです。本記事では、「世界と日本の八重歯に対する印象の違い」や「なぜ八重歯が治療すべき歯並びとされるのか」について詳しく解説していきます。
当院で実際に行った「5つの八重歯の矯正治療例」もご紹介いたしますので、八重歯を治療するかどうか迷っている方、八重歯にお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。
八重歯がかわいいのは日本だけ?
八重歯とは、上顎(まれに下顎)の犬歯が歯列からはみ出し、牙のように生えている状態を指します。歯科矯正学的には、八重歯は歯の凸凹である「叢生(そうせい)」と呼ばれる不正咬合の一つであり、具体的には「上顎犬歯の低位唇側転位」という、歯が本来とは異なる位置や方向に生えてしまう異常な状態です。
八重歯は主に、乳歯から永久歯に生え変わる際、犬歯の生えるスペースが不足していることが原因で起こります。そのため八重歯のある方は、叢生や上顎前突(出っ歯)など、歯並びの問題を複数持っていることがほとんどです。
八重歯は日本ではかわいらしさの象徴やチャームポイントとされ、個性的で愛らしい特徴という認識がありますが、歯への意識が高い世界の国々では見方が異なります。特に歯科先進国の欧米諸国では、治療すべき症状とみなされることが一般的です。また、日本人にはあまり馴染みはありませんが、八重歯がドラキュラの牙を彷彿させることから、マイナスイメージを持たれることも珍しくはありません。
美の基準や価値観は国だけでなく、人によっても異なりますが、グローバルな視点でみると、八重歯の印象は日本で言うところの「出っ歯」や「ガチャ歯」と同じ扱いになることが多いのです。
八重歯がもたらす問題とは
「八重歯を治療するべき」と矯正歯科医が言うのは、もちろん審美的な問題もありますが、決して見た目だけが理由ではありません。この理由は、八重歯が見た目だけではなく、口腔内の機能的な影響をもたらすためです。
犬歯には本来、奥歯を守り、安定した噛み合わせを保つ働きがあることをご存じでしょうか?私たちは食事をする際、意識していないだけで上下だけでなく、左右に顎を動かしています。例えば、顎を横にずらした際、八重歯のない正常な歯並びを持つ方は、上下の犬歯のみが接触し、上下の奥歯は噛み合わずに離れた状態になります。これを、「犬歯誘導」といい、歯の根っこが太くて長い犬歯が、横(側方)の力に弱い奥歯を守るために働く、非常に重要な咬合です。
八重歯によって、この犬歯誘導咬合が起きない状態になっていると、噛み合った奥歯に横方向の力が加わり、奥歯に大きな負担がかかってしまいます。これにより、歯を支える骨が吸収する「咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)」だけでなく、顎関節の痛みなどの症状が起こる「顎関節症(がくかんせつしょう)」にも繋がりかねません。
八重歯の影響として最も大きいのは、見た目や歯ブラシがしにくいことではなく、この犬歯誘導が行われないことで、奥歯への負担が大きくなることなのです。
八重歯を矯正するメリット・デメリット
メリット
八重歯を矯正して治すことは、「外見の改善」だけでなく、「正常な噛み合わせ」や、「歯の健康」にも繋がるでしょう。
八重歯を矯正する最大のメリットとしては、犬歯誘導によって安定した噛み合わせを得られることで、口腔内の健康を維持しやすくなることだと言えます。また、唾液による自浄作用が働きやすくなることで歯も磨きやすくなることから、セルフケアでもプラークをコントロールしやすくなる点も大きなメリットです。
デメリット
反対に、八重歯を矯正するデメリットは、「時間とコストがかかること」「矯正治療による不快感や痛み」などがあります。特に八重歯が生じている場合、ほとんどの症例で部分矯正ではなく全体矯正が適用されるため、症例にもよりますが、最低でも治療に1年程かかることが予想されます。また、八重歯は歯が並ぶスペースが不足していることで生じやすい不正咬合であるため、矯正治療の際にもそのままでは歯を並べることが難しく、小臼歯などの抜歯を伴うことも多くあります。よって、軽度の歯列不正に比べると治療期間や治療費のコストがかかりやすいのです。
矯正治療中には、このような一時的に起こるデメリットがありますが、八重歯を矯正することは、将来数十年にわたって使用する歯の健康にも繋がります。
八重歯を矯正するかどうかは、結局のところ個々の判断となりますが、治療することで歯列全体の機能を正常な状態へ改善できること、それと引き換えに一時的な費用や期間に関する忍耐が求められることも、考慮に入れると良いでしょう。
八重歯を抜くことはある?
矯正治療では、凸凹の歯列を並べる際に十分なスペースが確保できない場合、抜歯を併用した治療を行うことが多々あります。特に八重歯の場合、歯を並べるスペースが不足している傾向が強いため、抜歯矯正となるケースは比較的多いと言えるでしょう。
しかし、八重歯の場合だけでなく、全ての矯正治療において、一部の症例を除き犬歯を抜いて治療することはほとんどありません。これは、先ほどもご説明した通り、犬歯が噛み合わせにおいて非常に重要な役割を担っているためです。
ただ、治療後の審美性や患者さまの強いご希望、骨癒着等で犬歯を動かせない場合には、八重歯を抜歯して治療するケースもあります。
通常であれば、八重歯を矯正する際、歯を配列するためのスペースが不足している場合には、犬歯の後方にある第一小臼歯、あるいは詰め物や被せ物の関係で第二小臼歯を抜歯し、抜いた分のスペースを使って歯並びを改善します。
そのため、基本的には八重歯は抜かず、非抜歯の場合には歯と歯の間をmm単位で削りスペースを確保するIPR、抜歯の場合には犬歯の後方にある小臼歯を抜いて治療を行う形となります。
余談にはなりますが、犬歯は根っこが長く、さらに太いことから、他の歯に比べて移動に時間がかかることがあります。よって、八重歯に悩んでおり、なおかつ早く治療を終わらせたいという場合には、マウスピース(アライナー)よりも、歯のコントロールがスムーズなワイヤー矯正をおすすめいたします。
八重歯の矯正治療例5選
八重歯は、矯正治療の主訴としては非常に多い症状です。当院でも、八重歯の改善を希望され、実際に治療をした方が多くいらっしゃいます。今回は、抜歯と非抜歯症例を交えた合計5つの矯正治療例をご紹介いたします。
1. 八重歯と叢生が目立つ抜歯症例
治療前
まずは、八重歯に加え、叢生(歯の凸凹)が主訴の患者さまです。笑った口元のお写真では、八重歯が目立ち、さらに前歯の凸凹も目立ちます。また、鋭利な八重歯が下唇と接触しているのも特徴的です。
さらに口腔内をみてみると、ところどころ上下の噛み合わせが反対になっている、「交叉咬合(クロスバイト)」の症状も見られます。
治療後
叢生が重度であったことから、上下左右第二小臼歯を抜歯して、上下裏側矯正で治療することとなりました。治療後は笑った状態でも目立っていた八重歯と前歯の叢生が改善され、とても綺麗な口元になっているのがお分かりいただけると思います。
また、一部交叉していた噛み合わせも、正常な状態になり、機能面にも大きな改善が見られます。
歯の移動量が多いため、治療前にリスクとして下顎前歯の歯肉退縮と、それに伴うブラックトライアングルの出現が挙げられていましたが、適切なシミュレーションとデジタルシステムを用いた治療により、歯肉退縮を最小限に抑えつつ治療を終えることができました。
治療の詳細
症状 | ・上顎両側犬歯の低位唇側転位 ・上下顎重度の叢生 ・上顎側切歯の交叉咬合 |
治療法 | 裏側全体矯正(フルリンガル) |
抜歯部位 | あり:上下顎左右第二小臼歯(計4本) |
治療期間 | 1年6ヶ月(通院回数18回) |
治療費用 | 裏側矯正:¥1.210.000 抜歯4本:¥44,000 精密検査:¥55,000 ※すべて税込表記です |
リスク・副作用 | ・治療中の虫歯 ・上下前歯部の歯根吸収 ・矯正装置による口内炎治療後の後戻り ・下顎前歯部の歯肉退縮及びブラックトライアングル(隙間) |
2. 叢生を伴う八重歯を抜歯した症例
治療前
こちらの患者さまは、上顎左側にある八重歯、前歯を中心とした叢生を主訴に来院されました。結婚式を控えていらっしゃることから、短期間での治療を希望され、犬歯と小臼歯を抜いた際の違いやリスクを説明した上で患者様が犬歯抜歯を希望されたため、珍しい犬歯を抜歯したケースとなりました。
治療後
治療は、歯のコントロールがしやすく、治療の進行が早い表側矯正での治療で行いました。
抜歯した八重歯のスペースを使い、歯を並べたことで、治療後は気にされていた八重歯と叢生が大きく改善しています。
見た目だけでなく、しっかりと噛めるように咬合も改善したため、口腔内も治療前と比べると、非常にスッキリした印象になりました。
治療の詳細
症状 | ・上顎重度の叢生 ・下顎中等度の叢生 ・上顎左側犬歯の低位唇側転位 |
治療法 | 表側全体矯正 |
抜歯部位 | あり:上顎左側犬歯(計1本) |
治療期間 | 9ヶ月(通院回数9回) |
治療費用 | 表側矯正:¥990,000 抜歯1本:¥11,000 精密検査:¥55,000 ※すべて税込表記です |
リスク・副作用 | ・治療中の虫歯 ・上下前歯部の歯根吸収 ・矯正装置による口内炎治療後の後戻り ・下顎前歯部の歯肉退縮及びブラックトライアングル(隙間) |
3. 重度の出っ歯、叢生、八重歯の抜歯症例
治療前
まずは、治療前のお写真です。犬歯が転位して八重歯になっているほか、凸凹が非常に目立つ重度の叢生が見られました。
また、正面からは分かりにくいものの、横から口腔内をみると、上顎前歯が前方へ突出しており、重度の出っ歯も見られます。
こちらのケースでは、無理に非抜歯で進めることで口元の突出感が増加する可能性があるため、小臼歯の抜歯をして治療を進めることになりました。
治療後
治療は、上顎の左右小臼歯のみを抜歯で、表側矯正です。
治療後は患者さまも気にされていた、八重歯、叢生が改善され、非常に整った歯列となりました。
横から見た時の口元も、上の歯列が全体的に下がったことから、出っ歯の状態が目立たなくなり、口元の突出感も改善されています。
治療の詳細
症状 | ・上顎両側犬歯の低位唇側転位 ・上下顎重度の叢生 ・上顎骨の前方突出 |
治療法 | 表側全体矯正 |
抜歯部位 | あり:上顎左右第一小臼歯(計2本) |
治療期間 | 1年10ヶ月(通院回数22回) |
治療費用 | 表側矯正:¥990,000 抜歯2本:¥22,000 精密検査:¥55,000 ※すべて税込表記です |
リスク・副作用 | ・治療中の虫歯 ・上顎前歯部の歯根吸収 ・矯正装置による口内炎 ・治療後の後戻り |
4. 八重歯、狭窄歯列、交叉咬合の抜歯症例
治療前
こちらの患者さまは歯の凸凹を気にされており、笑ったときに歯並びが悪いことが気になってうまく笑えないというお悩みがありました。スマイル写真でも、笑った時の口角が下がり気味なのも特徴的です。
口腔内を見てみると、上顎だけでなく下顎の八重歯をはじめ、重度の叢生、ところどころ噛み合わせが上下反対になっている交叉咬合、下顎は歯列が狭くなっている「狭窄歯列」など、複数の問題点が見られました。
治療後
八重歯もあり、叢生が重度であったため、矯正装置を装着する前に小臼歯の抜歯をおこなって十分なスペースを確保しています。上下裏側での治療でしたので、普段の生活やお仕事中でも見た目からは矯正中であることがほとんど分からないように治療を進めることができました。
治療後は目立っていた重度の叢生、八重歯、交叉咬合が解消し、下顎の狭窄歯列も改善しているのが分かります。
治療後は、患者さまも歯並びを気にせず、笑顔を作れるようになったとのことでした。治療後のスマイル写真からは、口角がしっかりと上がり、自信を持って笑顔を見せていることが伝わります。
治療の詳細
症状 | ・上顎両側犬歯の低位唇側転位 ・下顎左側犬歯の低位唇側転位 ・上下顎重度の叢生 ・上顎側切歯のcross bite ・下顎歯列弓の狭窄 |
治療法 | 裏側全体矯正(フルリンガル) |
抜歯部位 | あり:上顎左側第二小臼歯、上顎右側第一小臼歯、下顎左右第一小臼歯(計4本) |
治療期間 | 1年10ヶ月(通院回数22回) |
治療費用 | 裏側矯正:¥1,210,000 抜歯4本:¥44,000 精密検査:¥55,000 ※すべて税込表記です |
リスク・副作用 | ・治療中の虫歯 ・上下前歯部の歯根吸収 ・矯正装置による口内炎治療後の後戻り ・下顎前歯部の歯肉退縮及びブラックトライアングル(隙間) |
5. 叢生と八重歯の非抜歯症例
治療前
こちらの患者さまは、前歯を中心とした上下の叢生と、八重歯を気にされていました。歯の前突などはないものの、歯列から飛び出た八重歯や、一部噛み合わせが上下反対になっている叢生が目立ちます。
患者さまの強いご希望により、こちらのケースは非抜歯で進めていくことになりました。ただ、この場合、何もせず非抜歯で歯を並べてしまうと、歯が唇側へと傾斜することで口元の突出感が出てしまうことから、IPR(ディスキング)の併用が必要になります。
IPRは非抜歯のケースで多く用いられる、歯の配列スペースを確保するための処置です。前歯を中心に、歯と歯の間を危害の及ばない範囲、約0.3mm前後をやすりのような器具で削ることで、歯を抜かずにスペースを作ります。
治療後
気にされていた八重歯、叢生が改善され、非常に綺麗な歯並びと噛み合わせで治療を終えることができました。
非抜歯ではあるものの、IPRを併用したことで正中のズレもなく、歯を綺麗に並べつつ歯の傾斜も最低限に抑えられたのは非常に大きいポイントです。
治療の詳細
症状 | ・上下顎中等度の叢生 ・上顎右側犬歯の低位唇側転位 |
治療法 | 裏側全体矯正(フルリンガル) |
抜歯部位 | なし |
治療期間 | 12ヶ月(通院回数12回) |
治療費用 | 裏側矯正:¥1.210.000 精密検査:¥55,000 ※すべて税込表記です |
リスク・副作用 | ・治療中の虫歯 ・矯正装置による口内炎治療後の後戻り ・IPRによる知覚過敏 ・上下正中線のズレの残存 |
まとめ「八重歯の矯正で健康と自信を」
八重歯を矯正することは、単に見た目を改善するだけでなく、口腔内の健康を一生涯にわたって向上・維持する助けとなるでしょう。矯正治療には時間や費用がかかる側面もありますが、そのメリットは自信を持って笑顔を見せられることだけでなく、噛み合わせの改善や安定、歯の健康など多岐にわたります。
もちろん、八重歯に対する印象や美的な評価は人それぞれ異なりますが、健康や自己表現に悪影響を及ぼす場合には、審美的な面だけでなく健康の観点からも矯正治療を受けることをおすすめします。
K Braces矯正歯科では、今回ご紹介した症例のほかにも、八重歯の症例を数多く手掛けてきました。矯正歯科専門の当院では、矯正歯科医のもと、矯正治療における歯肉退縮などのリスクを最低限に抑えるだけでなく、効率的な治療の進行によって治療期間の短縮が期待できる「デジタル矯正システム」を用いた矯正治療を提供しております。
八重歯にお悩みの方以外にも、ご自身の歯並びでお悩みがある方は、矯正歯科医へ直接相談可能な初回カウンセリングにて、お気軽にご相談ください。
矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について
- 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2 週間で慣れることが多いです。
- 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。
- 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や療期間に影響します。
- 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。
- 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
- ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
- ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
- 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
- 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
- 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
- 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
- 矯正装置を誤飲する可能性があります。
- 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
- 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
- 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
- あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
- 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
- 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。