前歯の隙間が目立つ「すきっ歯」は、その見た目から治療を希望される方が多い歯並びです。
しかし、「一般的な歯科と専門的な矯正歯科のどちらを選択したらいいのかがわからない」とお悩みになる方も少なくありません。それもそのはず、なぜなら一般歯科と矯正歯科では治療方法が大きく異なるからです。
そこで今回は、不正咬合の一つである「すきっ歯」に焦点を当て、「すきっ歯の原因」や「一般歯科と矯正歯科での治療の違い」などについて詳しくお話しいたします。 当院で実際に行った症例もあわせてご紹介いたしますので、すきっ歯の治療についてお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
正中離開とは?原因は?
すきっ歯は、前歯の中心線である正中に空隙(歯と歯の間にできる隙間)が生じていることから、専門用語では「正中離開(せいちゅうりかい)」と呼ばれています。
正中離開は上の前歯に発生しやすいため、下記のような問題点があります。
- 歯が見えた時に目立ちやすい
- 隙間から空気が漏れて発音に支障が生じる
- 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすい
正中離開が起きる原因には、他の不正咬合と同じようにさまざまな理由がありますが、主な原因としては以下の4つが挙げられるでしょう。
1. 上唇小帯の付着異常
上唇を引っ張ったとき、歯茎とつながるヒダが正中にあるのがお分かりいただけるでしょうか?この唇と歯茎を結ぶ組織は、「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」と呼ばれています。上唇小帯は通常、歯から離れた位置に付着していますが、なんらかの原因で付着異常を起こし、ヒダが前歯の間に入り込んでしまうと、小帯によって前歯同士が離れて正中離開が生じます。
2. 先天欠如歯(生まれつき歯の数が足りない)
生まれつき歯の数が足りないことを「先天欠如歯(せんてんけつじょし)」と言います。先天欠如歯は、側切歯と呼ばれる前歯の付近に起こりやすい症状です。このあたりに先天欠如歯がある場合、周囲の歯(前歯)が隙間を埋めようとして、結果的に正中離開が生じることがあります。
3. 過剰歯(生まれつき歯の数が多い)
先天欠如歯とは反対に、生まれつき歯の数が多いことを「過剰歯(かじょうし)」と言います。過剰な歯が歯茎の中にある場合、周囲の歯が過剰歯を避けて離れることがあり、これが正中離開を引き起こす原因になります。過剰歯は上顎の正中部に発生しやすいことから、正中離開の原因となりやすいのです。
4. 歯が小さい
歯のサイズが通常よりも小さい場合、歯列のスペースが余ってしまい、正中離開やその他の歯列にも影響が生じる空隙歯列を引き起こすことがあるのです。また、歯のサイズが通常通りであったとしても、土台となる顎が大きく、歯と顎のバランスが悪い場合も正中離開が起こりやすいとされています。 正中離開はこれらの原因が組み合わさったり、他の要因が関与したりして引き起こされる不正咬合ですが、詳しい原因は個人によって異なります。
一般歯科と矯正歯科での治療方法の違い
正中離開を含め、いかなる不正咬合の場合でも歯を自力で動かして治すことは不可能です。まれに輪ゴムなどを使用し、自分で治そうとする方もいらっしゃいますが、これは無意味であるだけでなく、さらなる歯列の悪化を招きかねないため、無理に自力で治そうとするのは控えるようにしましょう。
正中離開を治す方法には、一般歯科での治療と矯正歯科での治療がありますが、この2つの治療方法は、以下のように似て非なるものです。
一般歯科と矯正歯科の比較
一般歯科 | 矯正歯科 | |
保険の適用 | なし | なし |
治療期間 | 短い | 長い |
治療の効果 | 一時的 | 半永久的 |
重度正中離開の適応 | なし | あり |
では、一般歯科と矯正歯科で治療する場合、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?治療内容や、それぞれのメリットとデメリットを詳しくご紹介いたします。
一般歯科の治療方法
正中離開の場合は、外見を改善するための治療であることから「審美治療」とされ、一般歯科でも保険は適用されず、自費での治療となります。
一般歯科での正中離開の治療は、見た目を改善する以下の3つの方法が主流です。
ダイレクトボンディング
ダイレクトボンディングは、コンポジットレジン(CR)を歯に直接盛り、接着することで隙間を埋めてすきっ歯を目立たなくする方法です。コンポジットレジンは白いプラスチックであり、小さな虫歯治療などにも使用されています。
ダイレクトボンディングによる治療は、歯を削る量が少ないことや、通院回数が少なく済むという利点がありますが、使用するコンポジットレジンに吸水性があるため変色しやすく、さらに歯の横幅が大きくなってしまうなどの欠点があります。
ラミネートベニヤ
ラミネートベニヤは、歯に薄いセラミックの板を貼り付け、正中離開を目立たなくする治療です。爪にネイルチップをつけるように、専用の接着剤で歯の表面に板を貼り付けます。
ラミネートベニヤの板はセラミックが使われているため、コンポジットレジンを使用するダイレクトボンディングに比べ、着色のリスクは少なく済むのが特徴です。しかし、ベニヤを貼り付ける際、1mmほど健康な歯の表面を削る必要がある上、被せ物(差し歯)には使用できないといった難点があります。
セラミッククラウン
セラミッククラウンは、歯の周囲を大きく削り、その歯にセラミックの被せ物(クラウン)を被せてすきっ歯を目立たなくする方法です。歯の神経がなく、すでに被せ物が入っている場合には問題ありませんが、天然の歯の場合には歯質を削る量が非常に多いこと、神経を抜くこともあることから、正中離開の治療法としてはおすすめできません。
いずれの治療でも、一般歯科では以下のメリットとデメリットが特徴的です。
メリット
- 治療期間が短く、見た目の改善がすぐに実感できる
- 治療中の痛みや不快感が少ない
デメリット
- 修復物の経年劣化は避けられないため、効果が一時的で永久的ではない
- 重度の正中離開や、ねじれや傾斜のある正中離開には向いていない
- 健康な歯を削らなければいけない
矯正歯科の治療方法
矯正歯科で正中離開を治療する場合、開いた前歯を正常な位置に動かし、隙間を閉じる治療が行われます。一般歯科では難しい、ねじれや傾斜のある正中離開でも治療対象であり、前歯の隙間を閉じるだけでなく、奥歯の噛み合わせ、歯の凸凹など、歯並びに関する他の症状も同時に治療が可能です。
使用する装置は、以前まではブラケットとワイヤーを使用する「表側矯正」「裏側矯正」「ハーフリンガル矯正」が主流でしたが、近年精度が向上した「マウスピース矯正」でも、正中離開を治すことは十分に可能です。特に、正中離開以外の不正咬合がない場合には、マウスピース矯正で使用されるアライナーは、正中離開のように隙間を閉じる治療との相性が良いため、効果的に治療することができます。
ただ、正中離開以外にも、重度の過蓋咬合や上顎前突などの不正咬合が見られる場合には、治療期間が長くなりやすいこと、マウスピース矯正のメリットを活かしにくいことから、マウスピースではなく固定式のワイヤー矯正がおすすめです。
また、矯正治療では歯を並べるスペースがないことから、抜歯をして治療する方も少なくありませんが、正中離開の症状がある方は歯列のスペースが余っていることが多いため、非抜歯での治療になりやすい傾向にあります。
正中離開以外の症状や治療方法によっても変動があるものの、治療期間は約1〜2年が一般的です。
矯正歯科で正中離開を治療するメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット
- すきっ歯を根本から治すため、長期的な効果が期待できる
- 噛み合わせや他の不正咬合も改善できる
- 重度の正中離開にも対応できる
デメリット
- 治療期間が長く、年単位である
- 矯正装置を装着してしばらくは、歯痛や不快感が生じることがある
以上のことから、一般歯科と矯正歯科では、治療効果の持続性が最も大きな違いとなります。
正中離開の治療をするにあたり、何を第一に求めているかによっても適した治療法は異なりますが、健康面や総合的な審美性を考慮した場合には、矯正治療が適していると言えるでしょう。
正中離開は部分矯正で治る?
正中離開の症状を見ると、「部分矯正で前歯の隙間だけ閉じればいいのでは?」と思う方も多いかと思います。
しかし、実際は正中離開を部分矯正だけで治療する方は、あまりいらっしゃいません。これは、部分的に前歯の隙間だけを閉じても、余ったスペースが他の歯列に影響を及ぼすからです。
例えば、目の前に「10個のレンガ」が一列に並んでいたとしましょう。その中央にだけ10センチほどの余分なスペースがある場合、それを埋めるために中央の6個だけを内側に動かしても、今度は左右に新たなスペースができてしまいますよね。
これと同じく、歯を矯正する際も前歯だけでなく、奥歯も一緒に整えないと、噛み合わせがずれたり、奥歯が乱れたりする可能性があります。歯の調整は全体を考えなければなりません。前歯だけをいじると、歯並び全体に影響が及ぶことがあるので、部分矯正だけで治療できる方が少ないのです。 つまり、正中離開の治療では一部の症例を除き、前歯のみを動かす部分矯正ではなく、噛み合わせから治療する全体矯正が推奨されているということになります。
正中離開の治療例
症例1.マウスピースによる治療
治療前
こちらの患者さまは、お写真を見ていただくとわかるように、上下前歯部を中心としたすきっ歯にお悩みでした。また、正中離開だけでなく、歯と歯の間の隙間によって前歯が前方に傾斜し、出っ歯の症状も見られます。
患者さまが目立ちにくい治療を希望されていたこと、マウスピース型矯正装置がこのような空隙を閉じる症例に向いていたことから、マウスピース型矯正装置、インビザラインでの治療となりました。
治療後
治療後は気にされていた空隙がなくなり、すきっ歯、出っ歯気味だった前歯が改善しているのがわかります。前歯の正中も上下でしっかりと一致し、治療前と比べる口元の印象が大きく変化しました。
写真撮影時には、まだアタッチメントと呼ばれる透明な突起が歯に装着されている状態ですが、治療終了後保定期間に移行する際に綺麗に除去します。
治療の詳細
症状 | ・正中離開 ・上下顎空隙歯列弓 ・上下顎前歯の唇側傾斜 |
治療法 | マウスピース型矯正装置(非抜歯) |
抜歯部位 | なし |
治療期間 | 1年 |
治療費用 | ¥1,100,000(税込・精密検査料別) |
リスク・副作用 | ・上下顎前歯の歯根吸収 ・矯正装置による口内炎 ・治療中の発音への影響 ・治療後の後戻り |
症例2.裏側矯正装置による重度歯肉退縮が伴う治療
治療前
前歯のすきっ歯に加え、重度の出っ歯、噛み合わせが深い過蓋咬合、歯列不正による歯肉退縮など、さまざまな症状が併発している難症例の患者さまです。
重度の歯肉退縮を引き起こしている下の前歯は、噛み合わせの位置が悪く上の歯と強く当たってしまい、過度な負荷がかかることで次第に歯槽骨が吸収する「咬合性外傷」が起きている可能性が高く、歯が抜け落ちてしまうリスクも考えられました。
治療後
治療後のお写真です。正中離開はもちろん、出っ歯や噛み合わせの深さ、歯肉の退縮も改善され、噛み合わせも安定しています。
治療前、歯肉退縮を引き起こしていた歯は、歯根が歯槽骨から外側に飛び出していることが確認できたため、骨内に収まるよう内側に動かしつつ、歯を配列しています。
本症例では、当院で使用している3Dシミュレーションを使用したことで、精密、かつ安全な治療計画を立案することができました。
治療の詳細
症状 | ・正中離開 ・過蓋咬合 ・上下顎重度の空隙歯列弓 ・下顎左側中切歯の重度の歯肉退縮 |
治療法 | 裏側矯正装置(非抜歯) |
抜歯部位 | なし |
治療期間 | 1年 |
治療費用 | ¥1,210,000(税込・精密検査料別) |
リスク・副作用 | ・治療中の虫歯のリスク ・上前歯部の歯根吸収 ・歯肉退縮の改善不可 ・矯正装置による口内炎 ・歯根吸収 ・治療中の発音への影響 ・治療後の後戻り |
症例3.表側矯正装置による叢生、過蓋咬合の伴う治療
治療前
治療前は、上の前歯に空隙が生じてすきっ歯となっており、その他にも噛み合わせが深い過蓋咬合、下の前歯には軽度の叢生が見られます。
すきっ歯であること、叢生が軽度であることから、マウスピースによる矯正治療も考えられましたが、マウスピースでは難しいとされる過蓋咬合が見られたこと、治療期間のことなどを考え、表側のワイヤー矯正での治療となりました。
治療後
こちらは治療後のお写真です。すきっ歯をはじめ、下の前歯に深く覆い被さっていた過蓋咬合が改善されたのがお分かりになるでしょうか?
また、治療前にあった前歯の凸凹も消失し、非常に安定した綺麗な歯列となりました。
治療の詳細
症状 | ・正中離開 ・過蓋咬合 ・下顎前歯の叢生 |
治療法 | 表側矯正装置(非抜歯) |
抜歯部位 | なし |
治療期間 | 1年 |
治療費用 | ¥990,000(税込・精密検査料別) |
リスク・副作用 | ・矯正装置による口内炎 ・治療中の虫歯のリスク ・下顎前歯部の歯肉退縮によるブラックトライアングル ・治療中の発音への影響 ・治療後の後戻り |
正中離開は後戻りしやすい?
正中離開は、重度の歯のねじれなどと並び、治療が終わったあとに後戻りが起こりやすいとされてはいますが、これは出っ歯や歯の凸凹など、他の不正咬合でも同様です。正中離開に関わらず、矯正治療後は後戻りのリスクが存在しますが、これを防ぐためには、歯を動かした後の保定期間をどう過ごすかが重要になります。
保定期間中は「リテーナー」と呼ばれる保定装置を装着し、歯周組織を安定させる必要がありますが、使用を怠ると歯が元の位置に戻ろうと動くことから、後戻りが起きてしまうのです。矯正治療後の後戻りは、そのほとんどがリテーナーの装着不足によるものですので、装着時間を守ってしっかりと使用しているだけでも、治療後の後戻りを防げる可能性が高まります。
また、治療後に舌を前歯に押しつけたりする習慣(口腔習癖)が継続していた場合にも、舌の力で歯が傾斜し、治療前と同じような歯並びに戻ってしまう可能性がありますので、口腔周囲の習慣にも気をつけていれば、後戻りのリスクはさらに低下すると言えるでしょう。正中離開の後戻りを最小限に抑えるためには、適切なリテーナーの使用と、口腔習癖の改善が重要です。治療後も定期的な検診と、担当医の指示を守ったリテーナーの使用を心がけましょう。
まとめ「治療の効果で考えるなら専門性の高い矯正歯科がおすすめ」
正中離開の治療方法は、症状の重さや個人のニーズに応じて異なりますが、一般的には軽度から重度までの正中離開の治療に対応しております。噛み合わせを考えた全体矯正治療が最も適切な選択肢として考えられます。
矯正治療では、半永久的に治療の効果を得られますが、リテーナーを使用していないと後戻りが起こってしまうため、治療が終わった後も担当医からの指示がある期間中は、リテーナーを適切に使用しましょう。
正中離開と一言で言っても、その程度や歯列、噛み合わせの状態によっても推奨される矯正治療法は異なります。自分に適した治療方法を知るためにも、まずは矯正歯科医への相談をおすすめいたします。
K Braces矯正歯科では、今回ご紹介した症例以外にも、歯科矯正による正中離開の治療を多く行っています。
治療前には、当院が導入しているデジタル矯正システムによる精巧な3Dのシミュレーションを作成し、患者さまにとって最適、かつ安全な治療方法をご提案いたしますので、どんな症状の方でも安心してお任せください。
- 一般歯科ですきっ歯を治療したものの、ダメになってしまった
- 過去に矯正をしたが、後戻りしてしまった
- 噛み合わせからしっかりと治療をしたい
- 歯の凸凹や出っ歯も気になる
上記に当てはまる方や、矯正歯科医から直接治療方針が聞きたいという方は、お気軽に当院の初診カウンセリングをご利用ください。
矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について
- 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2 週間で慣れることが多いです。
- 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。
- 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重要であり、それらが治療結果や療期間に影響します。
- 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。
- 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。
- ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。
- ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。
- 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
- 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
- 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
- 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。
- 矯正装置を誤飲する可能性があります。
- 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
- 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
- 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやりなおす可能性があります。
- あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。
- 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えている骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になることがあります。
- 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。